個人事業主として独立すると、税金の知識をつけなくてはなりません。
その中でも、
「消費税の計算方法は?」
「消費税を払わないとどうなる?」
「消費税が免除される条件とは?」
といった、消費税に関しての疑問やお悩みはありませんか?
当記事では、消費税の計算方法や消費税が免除される条件、消費税を払わないとどうなってしまうのか、などについて詳しく解説していきます。
消費税とは
消費税は、国や地方自治体などが、商品やサービスの消費に対して課す税金のことです。
消費税は消費者が支払う間接税で、消費者に代わって事業者が国や地方自治体に納付しています。
事業者は、売上と一緒に預かった消費税から、仕入れなどで自分が負担した消費税を差し引いて、差額を消費税として納付します。
2023年4月現在、日本の消費税の標準税率は10%です。
食料品や新聞、医療費など一部の商品やサービスについては、軽減税率8%が適用されます。
標準税率と軽減税率はどちらも、国税である「消費税」と「地方消費税」が合算された税率です。
内訳は以下の通りです。
消費税 | 標準税率 | 地方税率 |
---|---|---|
消費税率 | 7.8% | 6.24% |
地方消費税率 | 2.2% | 1.76% |
合計 | 10% | 8% |
(参考:国税庁|消費税のしくみ、消費税及び地方消費税の税率)
この章ではまず、消費税の基本的な特徴について解説していきます。
消費税の概要
上述した通り、消費税とは、消費者が商品やサービスなどを消費した際に負担する税金です。
消費税の納税は、事業者が売上と一緒に消費者から預かった消費税と、仕入れなどで支払った消費税を相殺して、差額を納付するという形で行われます。
この納付は、「課税事業者」になることで義務付けられます。
課税事業者とは、課税期間である前々年度の課税売上高が1,000万円を超えている事業者のことです。
その年の課税売上高が1000万円を超えている課税事業者は、2年後の課税事業年度に消費税を納付しなくてはなりません。
課税事業者になると、法人か個人かを問わず納税が義務付けられることになるので注意が必要です。
納付する消費税額の計算方法
課税事業者は、「課税売上高に係る消費税額(受け取った消費税)」から以下の項目(受け渡した消費税)を差し引いた金額を納付する必要があります。
- 売上げに係る対価の返還等
- 貸倒れに係る税額
- 仕入税額
売上げに係る対価の返還等
消費者は、商品やサービスを購入した際に消費税を支払います。
しかし、後にその商品やサービスが値引き・返品・交換され、返金や代替品の提供が行われることがあります。
返金をしたり、売掛金の調整を行うと、そのお金の動きによって預かっていた消費税も減ることになります。
(参考:国税庁|値引き、返品、割戻しなどを行った場合の税額の調整(売上げに係る対価の返還等))
貸倒れに係る税額
貸倒れは、商品やサービスを購入した代金を支払えない取引先が現れたときなどに、売掛金や貸付金を回収できなくなることです。
たとえば、昨年10万円の商品を販売し、代金と一緒に1万円の消費税を受け取る予定で11万円の売掛金を計上していたとします。
1万円の消費税は、預かった消費税として昨年納税してしまいました。
この11万円が今年、貸倒れとなりました。
この貸倒れに関する1万円の消費税は、今年の納税時に、納税額から差し引きます。
このように、貸倒れになってしまった場合は、貸倒れとなった金額の消費税額を貸倒れが発生した課税期間の売上げに対する消費税額から控除します。
(参考:国税庁|貸倒れに係る税額の調整)
仕入税額
多くの事業主が、自社で販売する商品やサービスに必要な材料や部品などを購入する仕入をしています。
仕入税額とは、その仕入に対する消費税のことを指します。
仕入税額の対象となる費用には、営んでいる事業にもよりますが、以下のようなものがあります。
- 営業目的で購入した商品の購入代
- 原材料などの購入代
- 事業で使用する機器、車両などの購入または賃借代
- 広告宣伝費、光熱費などの費用
- 消耗品、図書などの購入代
- 修繕費
- 外注費
これらにかかった税額を「控除対象仕入税額」といい、その課税期間の売上に対する消費税額から控除します。
(参考:国税庁|仕入税額控除の対象となるもの)
控除対象仕入税額の計算方法
控除対象仕入税額を決める計算方法には、「原則課税方式」と、条件を満たした場合にのみ利用できる「簡易課税方式」の2通りがあります。
以下で詳しく解説します。
原則課税方式
原則課税方式は、これまでに解説してきたとおり、消費者が商品やサービスを購入した際に支払った「課税売上の消費税額」から、事業主が仕入れなどで支払った「控除対象仕入税額」の金額を差し引く計算方法です。
なお、原則課税方式には、さらに以下の3通りの計算方法があります。
全額控除
売上には、課税売上のほかにも非課税売上というものがあり、全ての売上で消費税を受け取っているとは限りません。
しかし、課税期間中の課税売上高が5億円以下で、課税売上の割合が全体の95%以上であれば、売上に関する消費税額から、仕入れ等に関する消費税額の全額を差し引くことができます。
全額控除の要件を満たさない場合、個別対応方式か一括比例配分方式を選択することになります。
個別対応方式
個別対応方式では、課税期間中の課税仕入れを3つの項目に分けて、それぞれ計算します。
- 課税売上の対象である仕入れ(全額控除)
- 非課税売上の対象である仕入れ(控除なし)
- 課税売上と非課税売上が伴う仕入れ(課税売上割合を乗じた分を控除)
課税売上となる普段から販売している商品やサービスに、一対一で対応していることが明確な仕入れの消費税は、その全額が控除対象です。
非課税売上に対応している仕入れの消費税は、控除対象外です。
課税売上と非課税売上どちらにも関わっている仕入れの消費税は、課税売上割合を使って控除対象額を算出します。
一括比例配分方式
個別対応方式のように課税仕入れを区分していない場合や、区分していても一括比例配分方式を選択する場合には、課税売上割合を使って控除対象額を算出します。
(参考:国税庁|仕入控除税額の計算方法)
簡易課税方式
簡易課税方式とは、課税売上にみなし仕入率を乗じて、仕入税額を計算する方法のことです。
消費者から預かった税である「課税売上の消費税額」は原則課税方式の場合と変わりありませんが、仕入税額の計算方法に大きな違いがあります。
原則課税方式では、仕入税額を実績で確認します。
しかし、簡易課税方式では、あらかじめ決められた「みなし仕入率」を課税売上に乗じてシンプルに計算します。
事業区分 | 事業の種類 | みなし仕入率 |
---|---|---|
第一種事業 | 卸売業 | 90% |
第二種事業 | 小売業 | 80% |
第三種事業 | 建設業、製造業など | 70% |
第四種事業 | 飲食店業 | 60% |
第五種事業 | 金融業、サービス業など | 50% |
第六種事業 | 不動産業 | 40% |
つまり、これまでに解説してきた仕入れなどに係る消費税額の細かい計算を一切せず、課税売上とみなし仕入率だけで消費税の納税額を計算できるのです。
しかし、簡易課税方式を選択するには以下の条件を満たす必要があります。
- 基準期間である2年前の課税売上金額が5,000万円以下であること
- 適用を受ける課税期間の初日の前日までに、届出書を所轄税務署長に提出すること
なお、簡易課税方式の計算は簡単ですが、必ずしも税額が安くはなるわけではないということに注意が必要です。
また、届出を提出したら最低2年は簡易課税方式を継続しなければなりません。
しっかりと検討した上で選択する必要があります。
(参考:国税庁|簡易課税制度)
個人事業主の消費税が免除される条件とは?
個人事業主は、課税売上高や開業してからの年数によって、消費税の納税義務を免除される場合があります。
以下の2つの条件のいずれかを満たすと、「免税事業者」となり、消費税の納税義務が免除されます。
開業から2年以内
個人事業主が免税事業者となるかどうかは、「基準期間」や「特定期間」の課税売上高によって決定されます。
基準期間とは、課税期間の前々年の1月1日から12月31日までの期間のことです。
特定期間とは、課税期間の前年の1月1日から6月30までの期間のことです。
例えば、2023年の場合、
- 基準期間:2021年の1月1日から12月31日
- 特定期間:2022年の1月1日から6月30日
となります。
基準期間、特定期間、共に課税売上高が存在しないので、開業1年目は確実に納税義務が免除となります。
課税売上高が1,000万円以下
基準期間、つまり課税期間の前々年の1月1日から12月31日までの期間に、課税売上高が1,000万円以下であれば納税義務は免除となります。
課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後に「基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている」ことになり、消費税の納税義務が生じることになります。
ただし、特定期間である、前年の1月1日から6月30日に課税売上高が1,000万円を超えてしまうと、翌年からすぐに消費税の納税義務が発生してしまうので、注意が必要です。
(参考:国税庁|納税義務の免除)
個人事業主は免税事業者でも消費税を請求できる?
個人事業主が免税事業者であっても、取引先には原則として、消費税を請求できます。
これを益税といい、免税事業者は請求した消費税を納税する必要はなく、自らの利益にすることができます。
免税事業者は、消費税納税を行わない代わりに、消費税の還付を受けることができません。
売上と一緒に消費税を預かることができなければ、仕入れなどで支払う消費税の負担が大きくなってしまいます。
資金繰りに困ることのないように、たとえ免税事業者であっても、消費税はしっかりと請求しましょう。
免税事業者は課税事業者になれる?
開業1年目か、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の免税事業者であることは、上述した通りです。
しかし、免税事業者の要件を満たしていても、自ら選択して課税事業者になることができます。
免税事業者が課税事業者を選択する方が良いケースとして、以下が挙げられます。
このような場合は、仕入れ控除が受けられる課税事業者を選択したほうが、消費税の還付を受けられることやクライアントとの取引きが有利になることがあります。
売上として受け取る消費税よりも、仕入れにかかる消費税の方が多い場合
免税事業者は、売上として消費税を受け取ることができます。
しかし、それでも仕入れにかかる消費税のほうが多いのであれば、課税事業者となって消費税の申告をしたほうが、還付を受けられるため資金面で負担軽減になります。
インボイス制度に対応したい場合
インボイス制度とは、適格請求書発行事業者のみが発行できる「適格請求書」を売り手と買い手の双方が保存することで、消費税の仕入税額控除が受けられるようになる制度です。
適格請求書発行事業者に登録できるのは、課税事業者のみです。
免税事業者は登録ができず、適格請求書を発行することができません。売り手が免税事業者であると、買い手は仕入税額控除が受けられないことになります。
このため、買い手が企業などの法人であれば特に、課税事業者を優先して取引をする可能性が高くなります。
得意先や競合の状況から、適格請求書発行事業者になったほうが利益が出ると判断される場合は、課税事業者になることを検討しましょう。
(参考:国税庁|インボイス制度の概要)
個人事業主は課税事業者から免税事業者に戻れる?
上記のように自ら選択して課税事業者になっても、免税事業者に戻ることができます。
免税事業者に戻るためには、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を、免税事業者に戻る課税期間の初日の前日までに納税地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。
また、課税事業者の届出が適用されてから2年間は免税事業者に戻ることができないので、注意が必要です。
個人事業主は消費税を払わないとどうなる?
課税事業者となった個人事業主が、消費税を納付しなかった場合、納付期限から2ヶ月を超えると年7.3%、2ヶ月以降は年14.6%の「延滞税」が科されてしまうので注意が必要です。
それに加え、税務当局からの指摘や調査などが行われ、法的な罰則が課せられる可能性があります。
督促状が届く
課税事業者が消費税を期限までに納付しなかった場合、納付期限の50日以内に税務署から督促状が送付されます。
督促状が到着したにも関わらず、さらに消費税の納付をしなかった場合、財産差し押さえなどといった処分を受ける可能性があります。
ただし、納付が困難な理由を税務署に申請することにより、差し押さえの猶予が認められる場合があります。
事情があって納付が困難な場合は、すみやかに税務署へ相談することが大切です。
財産が差し押さえられる
督促状を受け取ってもなお納付しない場合、財産が差し押さえられることになります。
差し押さえは給与や金融機関の預金、生命保険、株、不動産など、換金性が高いものから優先的に行われます。
また、差し押さえられた分の財産は、自由に処分することができなくなるため注意が必要です。
換価が行われる
差し押さえられた株や保険、不動産などの財産は、売却されて現金に換えられます。
そしてその現金が、滞納している税金、延滞税、罰金への支払いに充てられることになります。
まとめ
- 消費税は課税売上から課税仕入を差し引いた額を納付する
- 消費税を納税する際の計算方法は2通りある
- 基準期間や特定期間の課税高売上高が1,000万円以下、または開業1年目の場合、消費税は免税される
- 免税事業者であっても、課税事業者になった方がいい場合がある
- 課税事業者で消費税を払わないと財産が差し押さえられる
今回の記事では、個人事業主にとって身近でありながら、疑問も多くなりがちな消費税について、詳しく解説しました。
消費税制度を理解し、ビジネスの状況に合わせて最適な対応を選べるようにしておきましょう。