個人事業主は複数事業ができる?開業方法や確定申告方法について解説

コラム

個人事業主として活動している方々の中には、新たな事業に挑戦したい方や事業の拡大を考えている方もいらっしゃるかもしれません。

その中で、「新しい事業を始めるたびに開業届を提出する必要があるのか」「複数の事業を抱えている場合、確定申告はそれぞれ別々に手続きしなければならないのか」といった疑問をお持ちではありませんか?

この記事では、個人事業主が2つ目の事業を開始する際における開業届の手続きや決算書、確定申告に関する解説を行っています。

さらに、万が一赤字になってしまった場合の対処方法についても説明しています。

新たな事業を始め、事業の拡大を目指す個人事業主の方々は、ぜひ最後までお読みください。

個人事業主は複数の事業を同時に経営できる?

個人事業主は、同時に複数の事業を営んでも問題ありません。

実際、複数事業を経営している個人事業主も数多くいます。

たとえば、複数事業の経営には以下のような場合があります。

  • Webデザイナーをする一方、イラストレーターとしても活動
  • 美容室のオーナーをする一方、スイーツ店を経営
  • カフェの経営をする一方、マンションの賃貸業も行う

複数事業を営む場合、その事業で発生する所得が何に分類されるかによって、開業届や確定申告の方法が違ってくることがあります。

所得の種類

所得は、以下の10種類に分けられます。

自分の経営する事業がどの所得にあたるのか、確認しておきましょう。

所得の種類 内容
利子所得 預貯金や公社債の利子など
配当所得 株主や出資者が、法人から受け取る配当など
不動産所得 土地や建物などの貸付による所得
事業所得 事業から生まれる所得
給与所得 勤務先から受ける給料や賞与
退職所得 退職によって勤務先から受ける退職金など
山林所得 山林を伐採したものなどを譲渡した場合に生じる所得
譲渡所得 土地・建物・株式など、資産の譲渡による所得
一時所得 生命保険の一時金や懸賞や福引の賞金など、一時的な所得
雑所得 上記9つの所得に当てはまらない所得

多くの個人事業主の得る所得は、事業所得に当てはまります。

先ほど紹介した複数事業の例は、以下のように分類されます。

  • Webデザイナーをする一方、イラストレーターとしても活動
    ⇒両方ともに、事業所得
  • 美容室のオーナーをする一方、スイーツ店を経営
    ⇒両方ともに、事業所得
  • カフェの経営をする一方、マンションの賃貸業も行う
    ⇒カフェの経営は事業所得、マンションの賃貸業は不動産所得

複数事業を始める場合の開業届は提出すべき?

多くの個人事業主は、収入が事業所得に該当します。

既に開業届を提出して事業を営んでいる個人事業主が、新しく事業を始める際には、新たに開業届を提出する必要があるのでしょうか。

事業所得のみの場合と事業所得以外の所得がある場合で、開業届を提出する必要があるかどうか、そして屋号の扱いについて説明します。

事業所得のみの場合

まず、収入が事業所得のみの場合です。

もし既に1つ目の事業で事業所得、不動産所得、山林所得のいずれかで開業届を提出している場合、2つ目の事業を始める際には開業届の提出は不要です。

国税庁のサイトには「新たに事業を開始した場合には、個人事業の開業届出の提出が必要」と記載されています。
参考:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

この文章からは、2つ目の事業も開業届を提出する必要があるように思えますが、実際は異なります。

「新たに事業を開始した場合」というのは、青色申告の対象となる事業所得、不動産所得、山林所得を営んでいない場合に、それらのいずれかの業務を新たに始めた場合を指します。

参考:東京国税局「所得税消費税誤りやすい事例集」P23青色申告承認申請

したがって、1つ目の事業から得られる収入が事業所得に該当する場合は、特に開業届の提出は必要ありません。

確定申告の際には、新たに開始した事業を確定申告書に追加記入するだけで登録できます。

事業所得以外の所得がある場合

次に、事業所得以外の所得がある場合です。

1つ目の事業が事業所得以外だったとしても、その所得が不動産所得か山林所得にあたる場合、開業届の提出は不要です。

この場合も、確定申告の際に新たに開始した事業を確定申告書に追加記入しましょう。

もし、受け取っている所得が事業所得、不動産所得、山林所得以外の場合は開業届の提出が必要です。

開業届は、何度提出しても問題ありません。

新事業を立ち上げるごとに開業届を出した方が安心という方は、提出しても大丈夫です。

2つ目の屋号を登録したい場合

2つ目の屋号を登録したい場合、税務署で「屋号の追加登録」をすることで簡単に登録可能です。

具体的には、まず開業届の屋号欄へ新しく登録する屋号とフリガナを記載します。

そして、その他参考事項の欄に「屋号の追加登録」など、新しく屋号を登録することが分かるように記載するだけです。

開業時に屋号が決まっていない場合には、開業の申告と同じように確定申告の時に登録もできます。

青色申告書や確定申告書などの書類にある「屋号欄」へ記載するだけで登録されます。

複数事業がある場合の決済書はどうするべき?

決算書とは、会社の財政状況などを把握する書類です。

確定申告の際に青色申告を行う場合は「青色申告決算書」、白色申告を行う場合は「収支内訳書」の提出が必要です。

経営している事業の所得区分で、決算書もまとめられる場合とそうでない場合があります。

所得区分が事業所得の場合のみ、事業所得以外の所得がある場合について説明します。

事業所得のみの場合

個人事業主の経営している事業がすべて事業所得にあたる場合は、決算書をまとめることが可能です。

すべての事業内容を記載した決算書を1部作成すれば、大丈夫です。

違う業種だったとしても、業種ごとに分ける必要はありません。

ただし、これは経営している事業が「個人事業」の場合に適用されることです。

法人化している事業があれば、法人税の申告になるため、まとめることはできません。

また、事業の種類によっては税率が異なる場合があります。

その場合でも決算書はまとめることができますが、それぞれの所得が分かるように記載するようにしましょう。

事業所得以外の所得がある場合

経営している事業のうち、事業所得以外の所得がある場合は、決算書を1つにまとめられない場合があります。

なぜなら、青色申告決算書や収支内訳書の様式には「一般用」「農業所得用」「不動産所得用」とそれぞれの所得ごとで違った様式があるからです。

事業所得の場合は「一般用」の様式を使用します。

山林所得があれば「農業所得用」不動産所得の事業であれば「不動産所得用」と、それぞれの決算書を作成します。

複数事業を始める場合の確定申告方法はどうする?

確定申告とは、事業で得た所得に対していくら税金がかかるかを決める大切な手続きです。

原則、確定申告は総合課税方式で行います。

総合課税方式とは、いくつにも分類された所得を合計した総所得額に対し所得税を計算する方法です。

所得の種類によっては、確定申告書の記入を含めて1つでまとめて申告できる場合と、別に確定申告を行わないといけない場合があります。

事業で生じる所得が「事業所得のみ」と「事業所得以外の所得がある」場合の2つのケースに分けて確定申告の方法を解説します。

事業所得のみの場合

経営しているすべての事業が事業所得にあたる場合は、確定申告書をまとめて提出できます。

複数事業の事業所得を合算して、確定申告書に記入しましょう。

事業所得以外の所得がある場合

事業所得以外にも所得がある場合でも、総合課税の対象に該当するのであれば、確定申告書をまとめて記入できます。

総合課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に得た所得の合計に対して課税する方法です。

なお、事業所得(株式などの譲渡は除く)も総合課税対象に含まれています。

以下の所得が、事業所得以外の総合課税の対象です。

【総合課税の対象となる所得】

  • 利子所得
  • 配当所得(一部、申告分離課税もあり)
  • 不動産所得
  • 事業所得(株式等の譲渡による事業所得をのぞく)
  • 給与所得
  • 譲渡所得(一部、申告分離課税もあり)
  • 一時所得
  • 雑所得(一部、申告分離課税もあり)

経営している複数の事業で生じる所得が「事業所得」と「不動産所得」に該当する場合は、両方総合課税にあたるため、1つの確定申告書で提出できます。

しかし、上記にある所得でも(一部、申告分離課税もあり)と記載している雑所得などは、内容により総合課税の場合と申告分離課税に分かれます。

申告分離課税とは、総合課税のように他の所得と合計することができず、その所得を単独で課税する方法です。

所得内容が、申告分離課税にあたる場合はまとめることができないため、別々に申告しないといけません。

申告分離課税となる所得は、以下のとおりです。

【申告分離課税の対象となる所得】

  • 譲渡所得(株式・土地や建物の譲渡など)
  • 配当所得
  • 雑所得(FX取引など)
  • 山林所得
  • 退職所得
  • 利子所得(平成28年1月1日以後に支払を受けるべき特定公社債等の利子)

複数事業の1つが赤字になった場合は損益通算ができる

いくつも事業を経営していると、中には赤字になってしまう事業もあるでしょう。

始めたばかりの事業なら、なおさらです。

もし事業が赤字と黒字なった際は、損益通算できる場合があります。

損益通算とは、赤字の所得と黒字の所得を相殺できる制度のことです。

以下の所得が、損益通算可能な所得です。

【損益計通算できる所得】

  • 事業所得
  • 不動産所得(土地や建物の貸付など)
  • 総合課税にあたる譲渡所得(土地や建物・株式・生活に必要ない資産以外)
  • 山林所得

損益通算することで、黒字の事業にかかる税金を下げることができるため、節税につながります。

【おすすめ】複数事業を持つ場合は銀行口座やクレジットカードを分けよう

事業ごとに銀行口座やクレジットカードを分けなければいけない、という決まりはありません。

しかし複数事業を持つ場合は、分けることをおすすめします。

なぜなら、事業がいくつもあると入出金の数も増えるため、同一口座にしてしまうとそれぞれの収支が混在してしまい帳簿記入など経理処理が面倒になるからです。

銀行口座の開設やクレジットカードの申し込みは、自宅で手続き可能です。

銀行口座やクレジットカードを事業別にすると経理処理を楽にするだけでなく、スムーズな確定申告にも繋がるので、ぜひ使い分けましょう。

まとめ

  • すでに開業届を出している場合、2つ目の事業は開業届は不要
  • 2つ目の事業の開業や屋号の届出は、確定申告書に記入するだけで大丈夫
  • 経営する複数の事業の収入が事業所得の場合は、決算書も確定申告もまとめられる
  • 赤字が出た場合、黒字の事業との損益通算で節税できる
  • 事業ごとで銀行口座やクレジットカードは、分ける方が管理が楽になる

個人事業主が2つ目以降の新規事業を開業をする場合、最初の開業よりも手続きは簡単です。

決算書や確定申告書もまとめてできるケースが多く、事業が増えたとしても手間が2倍になることはありません。

もし新しく始めた事業が赤字だったとしても、黒字事業と損益通算をすることも可能です。

もちろん新規事業の立ち上げは、不安もあると思います。

しかし、小さな事業でしたら、あまり資金や手間をかけずにスタートすることができます。

事業拡大や新しい事業に挑戦したいと考えている方は、積極的に始めてみましょう。

マイチョイス編集部

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