改正電子帳簿保存法の施行により、令和6年(2024年)以降は、オンライン上でやり取りした書類は電子データで保存しなければなりません。
個人事業主の方のなかには、今後どのように領収書を電子化して保存すべきか、迷っている方も多いでしょう。
本記事では、個人事業主による領収書の電子化や、電子帳簿保存法の概要、領収書を電子化するメリットなどを解説します。
- 領収書の電子化について知りたい個人事業主の方
- 電子帳簿保存法について詳しく知っておきたい方
- 領収書を電子化するメリットを知りたい方
- 領収書を電子化する方法を知りたい方
上記に当てはまる方は、ぜひご一読ください。
この記事を監修した人
税理士:佐藤大貴
監修者プロフィール
上場企業の経理や事業管理として、10年以上業務に従事しながら税理士資格取得を目指す。
2022年に税理士資格を取得し、2023年税理士登録をおこない、4月に独立開業をする。
税理士業務もさることながら、企業での業務改善や学生に対する租税教室など、幅広く業務に携わっている。
個人事業主は領収書を電子化して保存すべき?
2022年1月1日に「改正電子帳簿保存法」が施行され、電子取引によって受け取った電子データの保存が義務化されました。
この改正電子帳簿保存法の施行により、2024年1月1日からは電子取引によって受け取った領収書を、要件どおりに電子データで保存しなければなりません。
ただし、紙で受け取った領収書に関しては、紙とスキャンした電子データのどちらで保存するかを選択できます。
ここでは、電子帳簿保存法に関する基礎知識や対応しなかった場合のリスク、インボイス制度との関係について解説します。
「電子帳簿保存法」とは
電子帳簿保存法とは、税務関係の帳簿または書類を電子データとして保存する際の要件がまとめられた法律のことを指します。
電子帳簿保存法は1998年に制定された法律ですが、2022年1月の改正によって、2024年から電子取引によるデータの保存が義務付けられることになりました。
電子帳簿保存法に対応するための保存区分は、以下の3つです。
保存区分 | 概要 |
---|---|
電子帳簿保存 | 会計ソフトなどによって作成した書類や帳簿をそのまま保存する方法 |
スキャナ保存 | 紙の書類をスキャナなどを用いて電子データ化し、保存する方法 |
電子取引 | メールまたはインターネットを通じてやりとりした情報をそのまま電子データとして保存する方法 |
また、電子帳簿保存法の対象書類は、以下の3つに分類されます。
書類の種類 | 対象書類 |
---|---|
国税関係の帳簿 | 売掛帳、買掛帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳など |
決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など |
取引関係書類 | 見積書、領収書、契約書など |
領収書などの取引関係書類は、紙で受け取った場合でも、スキャナやスマートフォンで読み取った電子データでの保存が可能です。
また、電子化した領収書の原本に関しては、破棄しても問題ありません。
電子帳簿保存法へ対応しなかった場合のリスク
電子帳簿保存法は、すべての事業者が対応すべき法律です。
以下では、電子保存法へ対応しなかった場合のリスクを解説します。
青色申告が取り消される
電子帳簿保存法では、データ保存のための要件が義務付けられています。
この要件に反した場合は、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
参考:国税庁|電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】※問57の部分
青色申告承認が取り消された場合は、最大65万円をはじめとしたさまざまな控除を受けられないほか、欠損金の繰り越しもできません。
青色申告の承認が取り消されたことが取引先に知られると信用問題にも関わるため、早めに法令への対応をしておくことが大切です。
推計課税や追徴課税が課される可能性がある
青色申告が取り消された場合は白色申告をおこなうことになります。
白色申告の場合は、青色申告に適用されていた特例はなくなり、「推計課税」が課されます。
青色申告の場合、帳簿に基づき課税をするため、推計課税はできません。
推計課税とは、税務署が間接的な資料をもとに法人税や所得税の額を決定し、課税をおこなうことです。
また、書類の偽装工作や隠ぺい行為などの違反が見つかった場合、さらに「重加算税」が課されることを覚えておきましょう。
重加算税とは、納税額を少なくする目的で意図的に提出書類を仮装・隠蔽した、と見なされた場合にかかる附帯税の1種です。
重加算税の税率は35〜40%相当と、附帯税のなかでは最も重く、対象となった場合には修正申告などの対応が必要です。
参考:国税庁|加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし
参考:国税庁|法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営方針)
100万円以下の過料が課されるおそれがある
書類の保存については、会社法にも一定の取り決めがあります。
書類や帳簿の保存について、会社法の保存義務に違反したり虚偽の記帳をおこなったりした場合は、100万円以下の過料が課される可能性があります。
出典:e-GOV 法令検索|会社法|第九百七十六条 過料に処すべき行為
電子帳簿保存法とインボイス制度の関係
電子帳簿保存法のほかに対応しなければならない制度の1つに、「インボイス制度」があります。
インボイス制度は2023年10月からスタートするため、電子帳簿保存法と混同する方も多いでしょう。
インボイス制度は正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、消費税に関する制度のことを指します。
「適格請求書」と呼ばれる請求書を用いることで、課税事業者は仕入税額控除が受けられます。
電子帳簿保存では、電子取引によって発生した請求書などの書類を電子データとして保存することが義務付けられていますが、インボイス制度で定める消費税法では、電子取引によって発生した書類に関しても書面で保存することが認められています。
電子帳簿保存法第7条に対象は、法人税と所得税と記載されています。
このように、電子帳簿保存法とインボイス制度では認められる書類の保存方法が異なりますが、何れにしても2024年以降は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
保存方法や業務フローを見直して、電子保存に対応しておきましょう。
個人事業主が領収書を電子化するメリット
領収書をはじめとした書類の電子化には、以下のようなメリットがあります。
それぞれについて解説します。
会計処理の効率化
領収書を電子化するメリットのひとつに、会計処理の効率化が挙げられます。
紙の領収書で経費計上をする場合、経理処理を他人に依頼している場合はその人へ郵送したり、ファイリングしたりしなければなりません。
また、必要な領収書を取り出し、並べ替えて確認をするなど、紙を取り扱うには何かと手間が発生します。
しかし、スマートフォンなどを利用して領収書を電子データ化すれば、電子保存ができるうえに郵送やファイリングをする手間も不要です。
会計システムを利用すれば、帳簿と一緒に書類を一括管理できるので、さらに業務の効率化につながります。
紛失・不正行為の防止
領収書は、帳簿などをまとめるファイルよりも小さいことがほとんどです。
現場での移動が多い場合などには、領収書を紛失してしまうこともあるでしょう。
電子化した領収書を会計システムやクラウド上に保存しておけば、領収書を紛失したり、汚してしまうトラブルを防止できます。
また、電子帳簿保存法では電子データの保存要件として、タイムスタンプの付与などが義務付けられています。
タイムスタンプとは、電子データが存在し、改ざんされていないことを証明する技術です。
領収書を電子化してタイプスタンプを活用すれば、書類が改ざんされるリスクが防げるので、従業員を雇った場合も安心です。
保管スペースの節約
領収書は、一定期間保存しなければならないと法律で決められています。
原則として5年~7年の保存となります。
そのため、領収書を書面で取り扱う場合は保管スペースをある程度確保しておく必要があります。
領収書を電子データとして保存しておけば、スペースを広く使えるので保管スペースを節約できます。
保管スペースを想定したオフィス選びをしなくても済むため、結果的に固定費の削減にもつながるでしょう。
個人事業主が領収書を電子化する方法
個人事業主が領収書を電子化する方法は、電子データで受け取った場合と紙で受け取った場合で保存する要件や方法が異なります。
電子データ保存に必要な要件を、以下で詳しく解説します。
電子データで受け取った場合
取引先から領収書がメールで送付された場合や、ECサイトなどで買い物をして領収書をダウンロードした場合など、電子データとして受け取った場合は、電子データとして保存できます。
ただし、以下の要件を満たす必要があります。
- 改ざんを防止するための措置
- 検索機能の確保
- プリンタなどの備え付け
改ざんを防止するための措置としては、タイムスタンプの付与や、データを訂正・削除した履歴が残るシステムなどでデータを保存する方法があります。
また、検索機能に関しては、専用のシステムを利用しなくても以下の方法での対応が認められています。
- 表計算ソフトで索引簿を作成する
- フォルダの検索機能が活用できるように規則性を持ったファイル名を付ける
国税庁のサイトでは、「参考資料(各種規定等のサンプル)」ページより、電子取引データの改ざん防止のための牽引簿や、事務処理規定のサンプルがダウンロードできます。
紙で受け取った場合
紙で受け取った領収書などの重要書類を電子保存する際は、以下の要件を満たす必要があります。
- 入力期間の制限(最長2ヵ月とおおむね7営業日以内)
- 200dpi 以上の解像度
- カラー画像による読み取り(約1,677万色以上)
- タイムスタンプの付与
- ヴァージョン管理
- 帳簿・スキャンした文書との相互関連性の保持
- 14インチ以上のカラーディスプレイの備え付け
- 整然・明瞭な出力
- 検索機能の確保
紙の領収書を電子保存する際は、基本的に速やかに、遅くとも上記の入力期限までに対応する必要があります。
確定申告前にまとめて対応ができない点に注意しましょう。
出典:国税庁|電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】|Ⅱ適用要件【基本的事項】
電子化した領収書の保存期間
電子化した領収書は、法人と個人事業主で保存期間が異なります。
法人税法では、領収書などの書類は確定申告書の提出期限翌日から7年間保存しなければならないと義務付けられています。
ただし、青色申告をした年に欠損金額が生じた場合などの保存期間は10年です。
出典:国税庁|タックスアンサー|No.5930 帳簿書類等の保存期間
個人事業主は、青色申告と白色申告で領収書の保存期間が異なります。
青色申告をする個人事業主の場合、領収書の保存期間は7年です。
ただし、前々年度分の事業所得・不動産所得の金額が300万円以下の場合は保存期間が5年になります。
白色申告の場合、不動産所得および山林所得、事業所得を得ている方は領収書を5年間保存しなければなりません。
2022年1月1日に改正電子帳簿保存法が施行されたことで、電子化した領収書の原本は破棄してもよいことになりました。
ただし、スキャナ保存の入力期間(最長2ヵ月とおおむね7営業日以内)が過ぎた場合などには、電子データと原本の両方を保管する必要がある点に注意しましょう。
個人事業主が領収書を電子化する際のポイント
個人事業主が領収書を電子化する際は、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
それぞれについて以下で解説します。
データの管理方法を見直す
領収書を電子帳簿保存法に対応した状態で保存するために、これまでのデータの管理方法を見直しましょう。
電子帳簿保存法に対応した電子データを保存するには、「検索機能」を確保する必要があります。
具体的には「取引年月日」「取引の金額」「取引先」が検索できるように、保存するファイル名に取引の日付や取引先の名称を記載しておくのがおすすめです。
また、Excelなどの表計算ソフトなどで牽引簿を作成するのも、ひとつの方法です。
データのバックアップ方法を見直す
領収書をはじめとした書類を電子データ化する場合は、データをどこに保存しておくのかをしっかり決めておきましょう。
パソコンのローカル環境にデータを保存した場合、パソコンが壊れたときにデータを紛失するおそれがあります。
さまざまなリスクを避けるために、定期的にパソコンデータのバックアップを取るのが最善です。
クラウドタイプのシステムであれば、自動バックアップや履歴を残しておくことも可能です。
電子化した書類には、一定の保存期間が定められているため、この機会にデータのバックアップ方法を見直すことが大切です。
業務フローを見直す
電子データの取り扱いに慣れていない方は、領収書を電子データで受け取ったり、紙で受け取ってスキャナ保存をしたりする際に、作業が煩雑になることもあるでしょう。
2024年1月からは電子取引によるデータ保存が義務化されるため、領収書などをはじめとした書類の電子化をする際の、一連の業務フローを見直すことをおすすめします。
会計ソフトの導入を検討する
領収書を電子化して保存するには、タイムスタンプの付与などのさまざまな要件を満たす必要があります。
電子データを取り扱うにあたって会計ソフトを導入すれば、電子化への対応も、業務の効率化も進めることが可能です。
特に、個人事業主の場合は帳簿の作成や確定申告に手間を取られることもあるでしょう。
会計ソフトを導入すれば、書類管理に割いていた時間を短縮できるほか、電子帳簿保存法に対応したデータも簡単に作成できます。
個人事業主におすすめの会計ソフトについては、以下の記事で詳しく解説しています。
個人事業主には会計ソフトが必要?初心者の選び方やおすすめを解説
まとめ
今回の記事のまとめです。
- 改正電子帳簿保存法の施行により、電子取引で受け取った領収書は電子化して保存しなければならない
- 領収書の電子化には、会計処理の効率化や保管スペースの節約などのメリットがある
- 個人事業主が領収書を電子化する方法は、電子データで受け取った場合と紙で受け取った場合で対応が異なる
- 領収書の保存期間は、個人事業主の場合5~7年
- 個人事業主が領収書を電子化する際は、会計ソフトを導入するのがおすすめ
電子取引によって受け取った領収書は、電子データで保存しなければなりません。
電子データ保存をスムーズに導入したい場合は、便利な会計ソフトの導入を検討しましょう。
個人事業主の領収書電子化に関するよくある質問
個人事業主の方が領収書を電子化する際に、疑問に思う点をまとめました。
領収書の電子化にまつわる疑問を解決したい方は、ぜひご覧ください。
領収書の電子化はいつから義務化される?
「電子取引における領収書」は、2022年1月1日以降から、電子データでの保存が義務付けられています。
紙で受け取った領収書に関しては、紙の状態でも保存が可能です。
電子領収書のデメリットは?
領収書の電子化は、電子帳簿保存法の要件を満たした状態で保存する必要があります。
これまで領収書を紙で保管していた方にとって、要件を満たしたうえで電子化するのは手間がかかるでしょう。
また、電子化するためのツールや専用ソフトに費用がかかる点もデメリットです。
手書きの領収書は電子化できる?
手書きの領収書は「国税関係書類」に該当するため、スキャナ保存によって電子化して保存できます。
ただし、仕訳帳や売掛帳などの「国税関係帳簿」は、手書きで作成した場合電子データとして認められません。
参考:国税庁|電子帳簿保存法一問一答 【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】
電子領収書に収入印紙は不要?
電子領収書に収入印紙は必要ありません。
国税庁のサイトでは、印紙税法に定められた課税文書について以下のように記載しています。
- 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
- 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
- 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
現状では「文書や紙での交付」が課税文書の作成とみなされるので、電子取引や電子契約による電子文書は課税文書には該当しません。
参考:国税庁|タックスアンサー|No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断
領収書はPDFファイルでもいい?
PDFファイルでのやり取りは「電子取引」に該当すると考えられるため、領収書に関してもPDFでの取り扱いが可能です。
ただし、電子データでの保存は以下の要件を満たす必要がある点に注意しましょう。
- 改ざんを防止するための措置
- 検索機能の確保
- プリンタやディスプレイなどの備え付け