「個人事業主は住宅ローンを組めるのだろうか」と、不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、会社員と比べて収入が不安定とみなされやすい個人事業主でも、住宅ローンを組むことは可能です。
本記事では、個人事業主の方が住宅ローンを組む際のコツや、おすすめの銀行を解説します。
この記事を監修した人
税理士:佐藤大貴
監修者プロフィール
上場企業の経理や事業管理として、10年以上業務に従事しながら税理士資格取得を目指す。
2022年に税理士資格を取得し、2023年税理士登録をおこない、4月に独立開業をする。
税理士業務もさることながら、企業での業務改善や学生に対する租税教室など、幅広く業務に携わっている。
個人事業主が住宅ローンを組みづらい理由
個人事業主が住宅ローンを組みづらい理由には、以下の3つがあります。
それぞれ詳しく解説します。
返済能力が低くみられる
個人事業主が住宅ローンを申し込む際にチェックされるのは、所得と事業の安定性から判断される返済能力です。
基本的に、会社員は給与から所得税や社会保険料が差し引かれているので、年収から生活費などを差し引いた額がすべて返済能力とみなされます。
一方で個人事業主は、売上から経費などを差し引いた「所得」が審査の対象です。
所得とは、いわば「儲け」となります。
節税目的で経費を多く計上していることも多く、所得が少ないと、住宅ローンの審査も厳しくなります。
また、個人事業主の収入は会社員に比べて安定性が低いと考えられており、一律に判断ができないため、返済能力が低いと判断される場合があります。
収入が不安定である
個人事業主が住宅ローンの審査を受ける際に不利になるのは、収入が不安定な点です。
毎月の給与収入がある会社員に比べて、個人事業主は景気や取引先との関係悪化、体調不良による休業など、急に収入がなくなる可能性があるため、金融機関側の審査は厳しくなります。
また、個人事業主は直近3年分の確定申告をもとに審査されるケースが多く、実績が3年未満の個人事業主は審査が受けられません。
3年以上事業を継続している実績がある場合でも、3年連続で黒字経営を続けていることが審査条件として求められます。
事業は黒字を続けていくことが重要です。
さらに、全体としては黒字年度の所得が多くても、直近の赤字年度の所得が審査基準になる可能性があります。
事業用の負債がある
事業用の負債がある場合、住宅ローン審査のマイナス要因になります。
金融機関は、住宅ローン以外の負債も含めて借入額が過大でないか審査しています。
事業用の負債が多い人ほど、借入が過大であると判定されてしまう可能性が高いでしょう。
個人事業主が住宅ローン審査で見られるポイント
個人事業主が住宅ローン審査で見られるポイントは、以下の5つです。
5つのポイントを詳しく解説していきます。
安定した収入があるか
事業が順調で十分な所得があり、将来にわたって安定的な収入が見込めている場合、金融機関に返済能力を証明できれば審査に通過する可能性が高くなります。
住宅ローンの申し込みには、黒字経営がわかる直近3年分の確定申告書の控えや所得税の納税証明書が必要になるため、まずは3年連続の黒字状態を整えることに専念しましょう。
借入金額が多すぎないか
住宅ローンは借入額が大きくなるほど審査が厳しいため、希望する金額が多すぎないかどうかは重要なポイントです。
借入をできるだけ抑えるために、頭金など十分な自己資金を用意しておきましょう。
自己資金の割合が増し、借入の金額を抑えられれば必然的に返済比率が下がり、審査に通りやすくなります。
自己が有している資産(現預金)も信頼のバロメーターです。
また頭金を準備すれば、まとまった金額を計画的に貯蓄できる人物だとアピールができるため、審査によい影響を与える可能性があります。
購入予定物件が古すぎないか
住宅ローン審査では、万が一債務者が返済不能になった際には、担保を売却して資金回収をするため、購入予定物件も審査の対象になります。
そのため、購入物件が古すぎると担保としての価値が低い、もしくはないと判断されて、住宅ローンが組めない可能性があります。
事業者本人の信用情報に問題はないか
住宅ローン審査では他のローン利用状況や、クレジットカード利用歴、返済状況などを登録した信用情報を金融機関側が確認します。
この際、返済滞納などの履歴がある場合は審査に通らない可能性が高くなります。
また、税金や保険料の滞納があっても審査にとおりにくくなるため、税金の支払いは申し込み前に済ませておきましょう。
納税をしていることも社会的信頼につながります。
事業者本人の健康状態に問題はないか
住宅ローンを組む場合、多くの金融機関で団体信用生命保険への加入が条件になります。
団体信用生命保険とは、住宅ローン契約者本人が返済途中で死亡したり、高度障害になったりした場合に、その後のローンの支払が免除になる保険です。
団体信用生命保険に加入する際は健康告知が必要になるため、健康上の理由で保険に加入できない場合は、住宅ローンを組めなくなる可能性があります。
個人事業主が住宅ローン審査を通過するコツ
個人事業主が住宅ローン審査を通過するコツは、以下の6つです。
審査時に必要な書類を漏れなく準備する
住宅ローンの審査では、下記の書類を金融機関に提出する場合があります。
必要書類 | 提出の目的 |
---|---|
確定申告書のコピー | 事前審査・本審査で必要。過去3年分、赤字の年があると審査にとおりにくい。 |
納税証明書の原本 | 本審査で必要。税金の滞納がないことを証明する。 |
身分証のコピー | 事前審査で必要。写真入りのものを用意する。 |
健康保険証のコピー | 事前審査で必要。国民健康保険料の滞納の有無を確認しておく。 |
印鑑証明書の原本 | 本審査で必要。申し込み時と契約時に求められる。 |
印鑑 | 事前審査は認印。本審査では金融機関届出印と実印が必要な場合が多い。 |
住民票 | 本審査で必要。 |
銀行通帳 | 金融機関によっては提出が必要。残高の確認、年金や公共料金の支払いが遅滞していないか確認する場合もある。 |
個人事業主の審査では、所得や年齢、事業の安定性、税金、社会保険料などの滞納の有無で申込者の返済能力を確認します。
参照する項目が多いため、会社員に比べ提出書類が多くなる場合があります。
過去3年分の所得を証明する
一般的に個人事業主は、住宅ローンの審査の際に収入証明書類として過去3年分の確定申告書および付表(収支内訳書、青色申告決算書など)の提出が求められます。
具体的に所得がいくら以上なら審査に通過するかなどは公表されていません。
しかし、金融機関のなかには「前年度の申告所得が200万円以上」を申し込みの基準とするケースもあるので、ひとつの目安にするとよいでしょう。
自己資金を用意する
個人事業主は、金融機関から収入が不安定とみなされやすいため、審査にとおりにくい傾向にあります。
住宅ローンの審査を通過するコツとして、自己資金をできるだけ多く準備して借入希望額を少なくする方法があります。
ローン完済時に高齢になる場合は、とくに審査が厳しくなることを踏まえ、自己資金を多めに用意しておきましょう。
過度な節税対策をしない
個人事業主の過度な節税対策は、住宅ローン審査で所得が少ないとみなされるため、注意が必要です。
売上があるにも関わらず節税対策によって所得が少ない場合、利益が出ていない事業だと判断され、審査で不利になります。
必要経費を計上する際は、過度な節税をしていないか確認しましょう。
正しく確定申告をおこなう
住宅ローンの審査では、確定申告書や青色申告決算書などの書類を金融機関に提出しますが、誤りが見つかるとスムーズな借入ができなくなるため注意が必要です。
個人事業主は書類作成など自分でおこなう場合も多いですが、住宅ローンの借入を検討する際は、確定申告が正しくおこなわれているか、税理士にチェックしてもらうのがおすすめです。
また、税金の支払いを滞納してしまうと審査に悪影響を及ぼすため、確定申告は毎年期限内におこない、所得税や個人事業税など各種税金の未納がないよう十分気をつけましょう。
他のローンを完済してから申し込む
住宅ローン審査では、他の借入状況について申告する必要があり、カードローンや車のローンなどが完済していないと不利になる場合があります。
さらに事業で高額な負債を抱えている場合は、収入に対して負債が多すぎると判断され、審査に落ちることがあります。
またクレジットカードや携帯電話の分割払い代金の支払いに滞納があると、信用情報機関でその情報が共有され、ローン全般の審査がとおりにくくなります。
住宅ローン審査を少しでもとおりやすくするために、他のローンは借入開始までに完済しておくのが理想です。
個人事業主の住宅ローンは「フラット35」がおすすめ
個人事業主におすすめの住宅ローン「フラット35」について、以下3つのポイントを押さえておくのが重要です。
「フラット35」が個人事業主におすすめな理由も含めて、詳しく解説していきます。
フラット35とは
フラット35とは、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する住宅ローンです。
最長35年の全期間固定金利型で安定した資金計画が立てられるため、計画的に繰り上げ返済したい方におすすめです。
利用条件として、以下の項目が挙げられます。
- 申し込み時の年齢が満70歳未満
- 借入額は100万円以上8,000万円以下
- 借入期間は15年以上35年以下
- 借入金利は全期間固定金利、資金受け取り時に決定
- 対象となる住宅の面積は一戸建て70平方メートル以上、マンション30平方メートル以上
- 火災保険の加入は必須
フラット35は、直近1期分の所得証明書類の提出で申し込めるため、他のローンと比べて圧倒的に利用しやすくなっています。
フラット35と一般的な住宅ローンとの違い
フラット35と一般的な住宅ローンとの違いは、以下の表のとおりです。
フラット35 | 一般的な住宅ローン | |
---|---|---|
金利タイプ | 全期間固定金利型 | 固定金利、変動金利など |
保証人・保証金の有無 | 不要 | 保証人・保証料が必要な場合がある |
審査の基準 | 勤続年数・勤務形態を問わず、正社員でなくても借入れしやすい(返済負担率の基準あり) | 年収基準・収入の安定度も審査対象のため、収入が安定しない人は借りにくい |
対象になる建物 | 一般的な住宅ローンよりも建物の基準は厳しく、住宅金融支援機構の技術基準を満たしていないと利用できない | 建築基準法の基いて建築されることが基本であるが、フラット35より間口が広い |
団体信用生命保険 | 加入は任意 | 加入は必須 |
フラット35を利用する際の注意点
フラット35は、以下の利用は認められないため注意が必要です。
- 自分で居住せず投資目的で住宅を取得する
- 住宅取得費用費以外の費用を上乗せして申し込む
- 消費者ローンなどの返済にあてる費用を上乗せして申し込む
フラット35は、自分が居住する住宅の取得に限定して、長期間固定金利で融資されます。
そのため、投資目的で購入する住宅や住宅以外の費用にあてることはできません。
自分、もしくは業者に依頼し虚偽の内容で融資を受けることは犯罪になり、契約違反で融資の残債務を一括返済請求されるため、利用目的内で融資を受けましょう。
なお、購入する物件は住宅金融支援機構が定める基準をクリアする必要があり、その際の物件検査費用は、数万円かかる場合があります。
個人事業主でも住宅ローンを申し込める銀行
個人事業主でも住宅ローンを申し込むことができる銀行を紹介します。
銀行名 | 提出書類 | 事業年数 | 年収 |
---|---|---|---|
三菱UFJ銀行 |
|
3年以上 | 記載なし |
三井住友信託銀行 |
|
3年以上 | 記載なし |
みずほ銀行 |
|
2年以上 | 記載なし |
りそな銀行 |
|
3年以上 | 記載なし |
SBI新生銀行 |
|
2年以上 | 300万以上 |
ソニー銀行 |
|
3年以上 | 400万以上 |
楽天銀行 |
|
2年以上 | 記載なし |
イオン銀行 |
|
3年以上 | ※ |
auじぶん銀行 |
|
3年以上 | 記載なし |
※過去3年の平均または直近年のいずれか低いほうの所得金額(売上から経費を控除したあとの金額)が100万円以上ある方
個人事業主が住宅ローンを利用する際のポイント
個人事業主が住宅ローンを利用する際のポイントは、以下の2つです。
店舗や事務所に対応しているか確認する
住宅ローンは居住用の建物を建てる際に借りられるローンであり、事業用の建物は対象外となっています。
店舗兼用もしくは併用住宅を建てる際は、原則として、住居部分と店舗部分を分けて資金調達する必要があります。
金融機関によっては資産状況や取引実績、業歴、所得などを考慮して、店舗面積が居住面積より半分以下であれば、住宅ローンとまとめて申し込める場合もあります。
借入後に住宅ローン控除の手続きをする
確定申告で住宅ローン控除の適用申請に必要な書類は、以下のとおりです。
書類 | 手続き方法 |
---|---|
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書 | 税務署・国税庁のホームページで入手可能 |
確定申告書第一表・第二表 | 税務署・国税庁のホームページで入手可能 |
住宅ローン年末残高証明書 | 金融機関から送付される |
登記事項証明書 | 法務局・オンラインで入手 |
住民票の写し | 市役所など |
住宅・土地の請負(売買)契約書の写し | 不動産業者と締結した契約書をコピー |
- 上記の書類をもとに、「確定申告書第一表、第二表」と「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」に必要事項を記載する
- 確定申告書の末尾に金融機関、支店名、口座番号を確定申告書の右下部分に記入し、期間内(原則2月15日〜3月15日)に管轄の税務署に提出する
- 還付金がある場合は後日指定した口座に振り込まれる
佐藤大貴
まとめ
ここまで個人事業主が住宅ローンを組む際の審査通過のコツや、おすすめの銀行について解説しました。
本記事のまとめは以下のとおりです。
- 個人事業主が住宅ローンを組みにくい理由は、収入が不安定であるため
- 個人事業主が住宅ローン審査で見られるポイントは、事業者の信用情報に問題がない点
- 個人事業主が住宅ローン審査を通過するコツは、他のローンはすべて完済しておくこと
- 「フラット35」は勤務形態に関わらず申し込みが可能で、個人事業主におすすめの住宅ローン
- 個人事業主が住宅ローンを利用する際は、店舗や事務所に対応しているか確認する
個人事業主は会社員に比べて収入が不安定であるため、住宅ローンの審査で不利になる場合があります。
審査にとおりやすくするためには、「黒字経営を続ける」「借入金額を抑えるために自己資金を準備する」など、できるだけ早い段階から準備をしておきましょう。
個人事業主の住宅ローンに関するよくある質問
個人事業主の住宅ローンに関するよくある質問について、以下にまとめました。
住宅ローンは所得が低いと組めない?
住宅ローンの審査は、年収だけでなくさまざまな要素に基づいておこなわれます。
収入に心配がある方は、一定の収入がある夫婦や親子などの同居家族が一緒に住宅ローンを組むペアローンや、収入を合算した金額で借入金額を増やす方法があります。
審査でチェックされる収入は何年分?
住宅ローンの審査で必要になる収入に関する書類は、直近2年分または3年分の提出を求められる場合が多いです。
3年分の確定申告書類が黒字になるように、事業計画をしっかり立てておきましょう。
住宅ローンは年収の何倍が目安?
住宅ローンがいくらまで組めるかは、金融機関の公式サイト「住宅ローンシミュレーション」を利用すればおおよその借入可能額がわかります。
ただし、実際にどれくらい借入できるかは各金融機関によって異なるため、シミュレーション上の返済比率に問題がなくても借入可能額が低い場合があります。
審査時の所得はどこを見る?
審査時の所得は、以下の「確定申告書第一表」の所得金額等の合計(12)の金額です。