個人事業主に労働基準法は適用されるのか、適用される場合とされない場合について解説していきます!
労働基準法とは
労働基準法とは、1947年に日本国憲法として制定された、労働している人の最低労働条件を定めた法律です。
労働している人の権利を守るために制定され、就業規則や労働災害時の補償、労働賃金などの労働に関する項目に関して、それぞれに基準を設定しています。
また、基準を違反した際の罰則についても定められています。
個人事業主には労働基準法が適用される?
個人事業主に労働基準法が適用されるのか、適用されるケースと適用されないケースについて解説します。
適用されないケース
個人事業主の場合、基本的に労働基準法は適用されません。
労働基準法上の労働者とは、事業または事務所に使用され賃金を支払われる者です。
取引先と業務委託契約を結び仕事の対価を報酬でもらう個人事業主は、賃金をもらう労働者には該当しません。
就業規則についても、会社に勤める従業員であれば働く時間が決められており、就業時間外であれば、残業代や時間外手当、休日手当をもらえます。
また、時間外労働についても「36協定」といった制限が決められています。
ですが、個人事業主の場合は働く時間も決められておりません。
長い時間働くこともあるため、労働基準法が適用されないケースが多いです。
適用されるケース
個人事業主は基本的に労働基準法が適用されないことを説明しましたが、例外的に適用されるケースもあります。
個人事業主が取引先と結ぶ業務委託契約の一部では、契約名は違っても実際の会社従業員の雇用形態と似ていることがあります。
具体的には、取引先が働く時間や休みを指定し自分で決められないなどの状況です。
このようなケースでは、契約上は業務委託であっても実際の内容は雇用契約が適用されます。
「労働者」に該当する場合があるため、個人事業主であっても「労働基準法」の適用対象になります。
「労働者」に該当するかの判断は、契約形式よりも労働基準法9条で定められている「事業に使用され賃金を受け取っている」かが重視されています。
では、個人事業主であっても労働基準法が適用される事例を6つ紹介します。
自分の意思で断れない仕事
1つ目の事例は、自分の意志で仕事を断れない場合です。
取引先に使用されているという判断になり、関係性が雇用契約に近いため労働基準法が適用されやすくなります。
一方で、自分で仕事を受けるか選べる場合は、従属関係とは言えないため適用外となることが多いです。
指揮監督を受けている
2つ目の事例は、仕事の進め方や内容の具体的な部分について取引先に定められ、指示に従い働いている場合です。
こちらのケースは、雇用契約と認められる場合があります。
また、取引先の指示や命令で契約した業務内容の範囲を超える業務を行う場合も、取引先に指揮監督されているとして認められる判断材料の1つです。
一般的に自分で仕事の遂行方法を選べる業務委託契約ですが、雇用契約のような従属関係になっていれば労働基準法が適用される可能性があるでしょう。
勤務場所や勤務時間が決められている
3つ目の事例として、働く場所や時間が定められているなどの拘束がある場合も労働基準法の適用となることがあります。
働く時間や休憩時間といった就業条件を自分で選べず、取引先の指示を受け働かされている場合は、雇用形態と認められる可能性があります。
労働者と報酬額の差異がない
4つ目の事例は、取引先企業で働く労働者と比較し仕事レベルが変わらず、働いた対価として受け取る報酬と労働者の賃金に差異がない場合です。
この場合も、雇用契約の状態に近いと判断できます。
一方で、受け取る報酬額が同レベルの仕事をする雇用契約の従業員に比べ非常に高額であれば、自分で報酬を計算して事業を行う事業主と判断され、適用条件に該当されにくくなります。
実費の負担が必要
5つ目の事例は、パソコンなどの仕事をする上で必要な道具を自分で揃える必要がない場合です。
取引先から支給される場合や、購入した費用を請求し負担してもらえる場合もこれに該当するため、雇用形態に近いといえます。
一方、仕事で利用する道具が非常に高額で自分で管理するケースもあります。
この場合は事業を行う事業主と判断され、適用条件に該当されにくくなります。
また、物に限らず職場までのガソリン代や電車賃といった交通費なども同様で、取引先から支給されており自分で負担していない場合は雇用形態と認められやすくなります。
専属性が高い
6つ目の事例は、個人事業主が取引き先との事業を主体的に行っている場合です。
会社の従業員のように、働いている時間の大半を事業に使っているケースでは、専属性が高く従業員と同様の労働条件と判断され雇用形態と認められる場合があります。
時間以外にも、福利厚生の内容や源泉徴収の有無、労働保険に適用しているかなど、複数の点で事業主と従業員を比較し、労働者に該当するか判断されます。
労働基準法以外で守るべき法律は?
独占禁止法
個人事業主の場合、一般的に会社の従業員と違い指揮監督下にないため、取引先から不自由であったり平等でなかったりといった正当ではない契約を結ばれてしまう恐れがあります。
独占禁止法は、事業を行う人が自分の意志で自由に活動し、平等で自由な競争ができるようにすることを目指して制定された法律です。
したがって、個人事業主として働かれている方にも関係してきます。
個人事業主の方に関係する、独占禁止法の規制は以下の6つです。
不公正な取引方法の禁止
1つ目は、不公平な取引方法の禁止で、平等に競争が行えなくなる行為を禁止しています。
具体的には、ライバル事業者に対して取引の妨害をする、不当な低価格で商品およびサービスを販売する、地位を利用し取引先に対し不当に不利益を与える、特定商品の提供と引き換えに他の商品も購入させるなどがあります。
企業結合の規制
2つ目は、企業結合の規則です。
企業同士が提携したり合併したりすることにより、公共の利益に反し平等な競争に影響を及ぼすと判断される結合行為を規制しています。
私的独占の禁止
3つ目は私的独占の禁止で、分野での競争を制限する、支配するような行為を禁止しています。
具体的には、事業者が他の事業者に対して、不当な低価格での商品販売などにより排除したり、株式を取得し制約をかけるなどの支配をしたりなどです。
独占的状態の規制
4つ目は、独占的状態の規制です。
競争に影響があると判断された際には、平等な競争を促すために、半分以上のシェア率を持つ事業者に対し、一部営業を譲り渡すよう指示しています。
具体的には、市場の半分以上を占めている事業者がおり、商品やサービスの価格が一定水準以下に下がることが難しい状況などです。
事業者団体の規制
5つ目は、事業者団体の規制です。
事業者の数を減少させ特定分野での競争に制限がかかる行為を禁止しています。
具体的には、事業者団体がある分野において新規事業者の参入を妨げたり、すでに市場にいる事業者を排除したりすることです。
不当な取引制限の禁止
6つ目は不当な取引制限の禁止で、不当な取引に繋がる行為を禁止しています。
具体的には、商品やサービスに関する入札時に、企業同士が実際の入札前に相談し取引先の企業や入札額を決め競争しない行為や、通常は各企業が設定する商品価格および生産数を協力して定めるといった行為などです。
下請代金支払遅延等防止法
下請代金支払遅延等防止法は、不公正な取引を規制し下請事業者の利益を守るために制定された法律です。
下請代金は給付を受領した日からできるだけ早く支払い、最大でも60日以内に支払う義務がありますので理解しておきましょう。
まとめ
- 労働基準法とは、労働者を守るための法律である
- 個人事業主は基本的に労働基準法が適用されない
- 雇用形態と認められるケースでは、個人事業主でも労働基準法が適用される
- 業務を発注、受注する際には独占禁止法に注意する
- 下請代金の支払いは60日以内に必ず行う
労働基準法とは労働者の最低労働条件を定め、労働者の権利を守るための法律です。
労働基準法は賃金を受け取る労働者に対して適用される法律であり、取引先と業務委託契約を結び、仕事の対価を報酬でもらっている個人事業主は基本的に適用されません。
ただし、自分の意志で仕事を決められなかったり、依頼者に働く時間や休憩時間を決められたりといった場合は、業務委託契約であっても雇用形態にあると認められることがあり、その場合は労働基準法の適応対象となることがあります。
事業を行う際には、私的独占の禁止や不公正な取引方法の禁止、独占的状態の規制などの独占禁止法に違反しないよう注意しましょう。
下請代金の支払いは、60日以内の支払いが義務化されているため、可能な限り早く支払うようにしましょう。