個人事業主の方にとって、福利厚生費を利用することは税金対策に欠かせません。
できるだけ経費を福利厚生費として計上できないかと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、福利厚生費は従業員のために支出する経費なので、従業員を雇用していない個人事業主の場合は、経費として計上することができません。
では、個人事業主が福利厚生費を経費計上できるのは、どんなときなのでしょうか?
本記事では、個人事業主が福利厚生費を利用できる条件、メリット、注意点について解説します。
個人事業主は福利厚生費を経費計上できる?
個人事業主が福利厚生費を経費計上できるかどうかは、従業員の有無や福利厚生制度の内容によって異なります。
従業員を雇用していない場合や、自分や家族のために支出する場合は、福利厚生費として経費計上できません。
しかし、従業員を雇用しており、従業員全員が同じ福利厚生制度を利用できる場合は、経費計上できます。
福利厚生費とは
福利厚生費とは、従業員の慰安や健康管理、そして労働意欲を向上させるために事業者が負担する費用のことです。
福利厚生費の代表的なものとして「社会保険料」などがありますね。
そのほかにも、健康診断、保養施設利用費、生命保険料、慶弔関連費などが含まれます。
福利厚生には、「法定福利厚生」と、「法定外福利厚生」の2種類があります。
「法定福利厚生」とは、文字通り法律で義務付けられている福利厚生のことです。
それに対して「法定外福利厚生」は、企業が独自で提供する福利厚生です。
福利厚生の種類 | 福利厚生の内容 |
---|---|
法定福利厚生 | 健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の6種類があります。 |
法定外福利厚生 | 社員食堂、社宅、退職金制度、育児休業制度など様々なものがあります。 |
上記のような支出を福利厚生費として経費計上すると、節税になるメリットがあります。
ただし、福利厚生費として認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。
家族以外の従業員がいる場合には福利厚生費が利用できる
個人事業主は、自分自身を含む家族以外の従業員がいる場合に、福利厚生費を利用することができます。
個人事業主のみの単独経営や、従業員が家族だけという家族経営の場合には、個人が使用したお金という扱いになり、福利厚生費の経費計上は認められません。
単独経営や家族経営では、仕事のための支出なのか、生活のためや趣味・娯楽のための支出なのか、線引きが難しいためです。
よって、個人事業主が福利厚生費を利用するには、家族以外の従業員を雇っている必要があるのです。
個人事業主が福利厚生費を利用するメリット
個人事業主でも、福利厚生制度を導入するメリットはあります。
例えば、従業員の満足度を高めることで働く意欲を向上させることができます。
従業員が働きやすい労働環境を維持することで、採用や定着率の向上にもつながります。
従業員が働きやすい労働環境を維持する
福利厚生費を利用することによって、従業員が働きやすい労働環境を維持するメリットには、以下のようなものがあります。
- 従業員の健康管理や安全対策に貢献する
- 従業員に安心感を与え、精神的な余裕を持ってもらう
- 従業員の満足度や忠誠度を高め、離職率を低下させる
具体的には、通勤費や社内忘年会の飲食費用、健康診断や保険料、研修費や資格取得補助などといった福利厚生を利用することで、従業員に精神的にリフレッシュしてもらい、働きやすい労働環境だと感じてもらうことができます。
従業員の意欲が向上する
また、福利厚生には、従業員の働く意欲や定着率を向上させられるというメリットがあります。
従業員の経済的保障を手厚くすることにより、「ここは福利厚生費がちゃんとしている。ずっとここで働きたい」と思ってもらえるからです。
従業員は事業の利益が出るように貢献してくれる大切な人材です。
その従業員のためにも、福利厚生費を利用して働きやすい職場環境を整えるのはとても重要なことなのです。
福利厚生費が認められる条件
福利厚生費が経費として認められるためには。以下のような条件を満たす必要があります。
例えば、社員旅行や社宅、健康診断などの費用は、福利厚生費として認められます。
しかし、役員や一部の従業員だけに支給するものや高額すぎる飲食代などは、福利厚生費としては認められません。
従業員全員に適用される
福利厚生は特定の従業員だけではなく、すべての従業員に平等に適用されなければなりません。
例えば、「特定の従業員しか社員旅行に行けない」ということでは、その費用は福利厚生費にはなりません。
上記の例のような場合には、福利厚生費ではなく特定の従業員への給与として、旅費などの費用を計上する必要があります。
ただし、合理的な理由があり、福利厚生の金額に差が出ることについては、問題ありません。
妥当と思われる金額の範囲内である
福利厚生費の金額には、上限が決まっているわけではありません。
しかし、あまりに高額すぎる金額は福利厚生費として認められません。
社会的に妥当と思われる金額の範囲内であることが条件となります。
妥当と思われる金額の範囲内とは、一般的な相場や事業の規模、業種などを考慮して、適切であることを意味します。
更にわかりやすく言うと、福利厚生費が全ての従業員に適用されることを考えた場合に、個人事業主が支払える金額の範囲ということです。
例えば、福利厚生のつもりで飲食の提供をした場合でも、完全に無償であったり、限度を超えて高額であったりする場合には、福利厚生費ではなく給与とみなされます。
また、従業員の飲食代を福利厚生費とする場合には、特に注意が必要です。
事業者が従業員の飲食代を福利厚生費とするための条件は、従業員が50%以上を負担し、事業者の負担が一人当たり月3,500円以内であることと定められています。
経団連の発表では、全ての業種の企業に対する調査で、2019年度の法定外福利厚生費は従業員一人あたり「24,125円」でした。
この金額を12ヵ月で均等に割ると、一人あたり月2,000円程度であったことがわかります。
しかし、もちろんこれは調査対象となった企業全体の平均であり、一つの目安に過ぎません。
福利厚生費の支出が過大すぎたり、不適切であったりする場合には、税務署から是正指導や追徴課税を受ける可能性があります。
(参考:経団連 第64回 福利厚生費調査結果報告)
個人事業主が福利厚生費として利用できるサービスは?
個人事業主でも、家族以外の従業員を雇っている場合には、その従業員に対する福利厚生費を経費として計上することが可能です。
専従者(配偶者や親族など)に対する報酬や社会保険料は、経費として計上することはできますが、福利厚生費(法定外福利厚生)とは異なります。
では、個人事業主はどのような支出を福利厚生費とすることができるのでしょうか?
利用できる条件を、見やすいように一覧表にまとめました。
福利厚生の種類 | 経費として計上する条件 |
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家賃の補助 |
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健康診断 |
|
慶弔関連費 |
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生命保険 |
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社員旅行 |
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施設利用 |
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自己啓発 |
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それでは各項目ごとに、ひとつずつ詳しく解説していきましょう。
家賃の補助
家賃の補助は、事業者が従業員の住宅費用を一部負担する、福利厚生の一つです。
家賃補助を支給する条件や金額は事業者によって異なるものですが、以下のような基準に沿って福利厚生費とする判断をします。
- 家賃の支払い先が自分や家族ではなく、第三者である
- 家賃の支払い額が相場と比べて妥当である
- 住居を事務所と兼用してる場合は、その割合を明確に区別できる
家賃補助の支給によって、従業員は住宅費用の負担が軽減され、事業者は節税をすることができます。
ただし、家賃補助は従業員にとって給与所得となり、所得税や住民税の計算対象になりますので注意が必要です。
(参考:国税庁 給与所得となるもの)
健康診断
従業員の健康的な生活を支援するためにも、定期的な健康診断は必要です。
健康診断の費用は、以下のような条件を満たしていれば福利厚生費として経費計上することができます。
- 従業員に対して年1回以上の健康診断を行っている
- 健康診断の費用が相場と比べて妥当である
ただし、従業員の健康診断費用は福利厚生費として計上できますが、個人事業主やその家族である専従者の健康診断費用は経費とすることができません。
慶弔関連費
結婚祝金、出産祝金、傷病見舞金、災害見舞金、死亡弔慰金などの従業員への慶弔見舞金は、以下のような条件を満たしていれば福利厚生費として経費計上することができます。
- 従業員に支払う慶弔関連費の内容や金額が相場と比べて妥当である
- 支払った証拠となる領収書や名簿などの書類を保管している
条件を満たした慶弔関連費は福利厚生費となります。
所得税は非課税となるため、源泉徴収も不要です。
生命保険
個人事業主が自分や家族のために掛けた生命保険料は、原則として経費としては認められません。
しかし、従業員の福利厚生として従業員のために負担した生命保険料は、以下のような条件を満たしていれば福利厚生費として経費計上することができます。
- 従業員に掛ける生命保険の契約内容や保険料が妥当である
- 生命保険の契約者が事業主であり、被保険者が従業員である
- 生命保険の受取人が本人や遺族であり、全従業員を対象としている
ただし、個人事業主が全ての従業員に対する福利厚生として生命保険を利用するケースは、そう多くはないかと思います。
従業員の生命保険料を福利厚生費としたい場合は、個別の事情を税務署や税理士に相談しておきましょう。
社員旅行
慰安旅行などの社員旅行は、従業員の楽しみのひとつでもあり、気持ちをリフレッシュさせることが期待されます。
また、今後の業務に意欲的に取り組むモチベーションを高めることができます。
社員旅行の代金は、以下のような条件を満たしていれば福利厚生費として経費計上することができます。
- 社員旅行への参加がすべての従業員に解放されている
- 社員旅行の目的や内容が、福利厚生の一環として妥当である
- 社員旅行の金額が一人あたり10万円程度までである
この場合、自分の旅費も福利厚生費に含めることができます。
ただし、4泊5日以上の長期旅行である場合、一人あたりの会社負担額が10万円以上の贅沢な旅行である場合、不参加の従業員にお金を渡す場合などには、福利厚生費ではなく給与とするのが妥当となります。
社員旅行の代金を福利厚生費としたい場合は、個別の事情を税務署や税理士に相談しておきましょう。
施設利用
個人事業主が自分や家族のために支払ったスポーツジムやレジャー施設などの利用料は、原則として経費としては認められません。
しかし、従業員が福利厚生として同じ施設を利用できる場合には、経費計上が可能です。
- 施設の利用がすべての従業員に開放されているかどうか
- 施設の利用が福利厚生の一環として妥当であるかどうか
この場合、自分の施設利用料も福利厚生費に含めることができます。
自分や家族、従業員のための施設利用代金を福利厚生費としたい場合は、個別の事情を税務署や税理士に相談しておきましょう。
自己啓発
資格取得のための費用、書籍代やセミナー参加費用など、自己啓発のための支出を個人事業主が福利厚生費として経費計上できるかどうかは、以下のような条件によって判断されます。
- 自己啓発の内容がすべての従業員に開放されている
- 自己啓発の内容が事業に関係するものである
自分や家族以外に雇用している従業員がいて、上記のような条件を満たしている場合には、自己啓発のための費用を福利厚生費として経費計上することができます。
この場合、自分の自己啓発費用も福利厚生費に含めることができます。
個人事業主が福利厚生費にできないものは?
個人事業主が自分や家族のために支出した場合、それを福利厚生費として経費計上することはできません。
なぜなら、福利厚生費は原則として、雇用している従業員のための支出に対して認められる経費だからです。
そのため単独経営や家族経営である場合には、福利厚生費として経費を計上すること自体ができません。
例えば、自分や家族が病気になった時にかかる医療費や保険料は福利厚生費として計上できませんし、自分だけが利用するスポーツジムや書籍は福利厚生費として計上できません。
また、福利厚生費として計上できるものは、すべての従業員に開放されているものでなければなりません。
そして事業に関係するものに限定されています。
趣味や娯楽に関する費用は、経費として計上することはできません。
ここからは、法定福利費にできないケースを紹介していきます。
従業員が同席する接待
従業員が同席する接待の費用を福利厚生費として計上できるかどうかは、その目的や対象者によって異なります。
一般的には、従業員全員が対象となる慰労会などの費用は、福利厚生費として認められます。
しかし、特定の従業員だけを接待する場合や、取引先などの外部の人と一緒に会食を行うような場合には、その費用は交際費とするのが妥当となります。
例えば、取引先から招待された食事会に従業員と一緒に参加する場合は、その費用は交際費として計上しましょう。
(参考:国税庁 交際費等と福利厚生費との区分)
通勤費
従業員に通勤費を支給する場合は、一定額までは福利厚生費として計上することが認められています。
上限額を超える額は支給月の給与とみなされ、源泉徴収の対象となります。
従業員が電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合の通勤手当は、税法上、月15万円を上限金額として非課税の福利厚生費とすることができます。
ただし、条件として「経済的かつ合理的な経路」の金額でなければなりません。
従業員が自家用車を利用する場合の通勤手当は、2km未満であれば全額課税対象、2km以上の場合には距離に応じて段階的な非課税額が決められています。
従業員である家族との旅行
従業員である家族との家族旅行は私的旅行とみなされ、旅行費を経費として計上することはできません。
ただし、社員旅行として福利厚生費にするための条件を満たしている場合には、一人当たり概ね10万円までを福利厚生費とすることができます。
その条件とは、以下のようなものです。
- 従業員の50%以上が参加する
- 事業者が計画、実施、管理する
- 事業者の方針や目標を伝えるなど、業務上の目的がある
例えば、個人事業主やその家族だけでの旅行費用は、従業員の50%以上が参加するという条件を満たしていませんので、福利厚生費として経費計上できないということです。
個人事業主の福利厚生費の仕訳方法
福利厚生費用の勘定科目には、法律で義務付けられている「法定福利費」と、会社が自由に決められる「福利厚生費」があります。
- 【法定福利費】とは、社会保険料や労働保険料など、法律で義務付けられた福利厚生に対する費用です。
- 【福利厚生費】とは、健康診断や慰安旅行など、会社が自由に決められる福利厚生に対する費用です。
仕訳方法は、支払った経費を「法定福利費」や「福利厚生費」という勘定科目で計上し、「現金」や「普通預金」と相殺します。
具体例を挙げてみましょう。
従業員の社会保険料10万円を支払った場合
借方 | 貸方 |
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法定福利費 10万円 | 普通預金 10万円 |
従業員に対して健康診断料5万円を支払った場合
借方 | 貸方 |
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福利厚生費 5万円 | 現金 5万円 |
以上が、個人事業主の福利厚生費の仕訳方法についての具体例です。
まとめ
個人事業主が福利厚生費として経費を計上できるのは、自分や家族以外に雇用している従業員のために支払う場合です。
福利厚生として認められるためには、従業員全員に解放されていること、適切な金額であることなどの条件があります。
福利厚生費の利用には、従業員の健康を管理することができる、働く意欲を向上させることができる、節税になる、などのメリットがあります。
福利厚生費として利用できるサービスは、家賃や健康診断料金など多岐に渡ります。
接待の費用は福利厚生費にはなりません。また、家族だけの旅行などは、経費として計上することができません。
以上、個人事業主が福利厚生費を利用できる条件やメリットなどについて解説しました。本記事にて福利厚生費について正しく理解し、従業員の意欲を高めてより良い職場環境づくりに役立てていただければ幸いです。