個人事業主として開業した際、最初にぶつかる壁の1つが確定申告です。その中で、
医療費は経費にできるの?
従業員の医療費は経費にできる?
医療費控除って何?
このような疑問はありませんか?
この記事では、個人事業主やその従業員は医療費を経費にできるのか、医療費控除とは何かなどについて解説していきます。
個人事業主の医療費は経費にならない
結論から言うと、個人事業主の医療費は原則、経費として認められません。
経費とは事業で収入を得るために必要な費用として支払われるものであり、個人的な支出は含まれません。
医療費は基本的に個人的な負担であり、事業とは直接関係がないと考えられるからです。
健康診断も経費にならない
個人事業主が健康診断や予防接種を受けた際の費用も医療費と同様、経費にすることはできません。
健康診断も医療費と同様に、個人的な支出と見なされ、事業に必要な費用として認められないため、経費として計上することはできないのです。
また、事業主の配偶者や親族である、いわゆる青色事業専従者も医療費や健康診断などの費用を経費にすることができないので注意が必要です。
個人で払った薬代の勘定科目
薬代もまた、医療費や健康診断と同じように経費にすることはできません。
上述した通り、事業とは関係のない個人的な支出になるため、一時的に事業用口座または現金から借りたプライベートな支出という考え方になります。
仮にこれらの費用を個人で支払った際は、「事業主貸」という勘定科目で記帳する必要があります。
従業員がいる場合は例外もあり
個人事業主や青色事業専従者の医療費や健康診断などは経費にならないと述べてきました。
しかし、個人事業主が従業員を雇っている場合、例外として経費と認められるものがあります。
以下、詳しく解説していきます。
従業員がいる場合は経費として認められる
個人事業主で従業員がいる場合、その従業員に対しての医療費もまた、経費にすることはできません。
しかし、後述する一定の条件を満たした場合、経費として認められます。
その代表的なものが健康診断や人間ドック、予防接種などです。それでは、条件や経費にできる理由などについて解説していきます。
従業員の健康診断は経費になる
個人事業主が経費にできるものの1つとして、従業員に対する健康診断や人間ドックの費用があります。
従業員の健康診断や人間ドックが経費として認められる理由は、労働安全衛生法といって年に一回健康診断を受けることが法律で義務付けられているためです。
しかし、経費として認められるには一定の条件を満たす必要があります。
経費と認められる3つの条件
従業員が健康診断や人間ドックを経費として認められるには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 全ての従業員が健康診断の対象者になっている
- 金額が高すぎず、常識の範囲内で収まっている
- 費用の全額を直接、企業から医療機関へ支払っている
また、予防接種は上記の条件に加え、ウイルスに感染することで業務に大きな影響を及ぼすなどの理由が必要になります。
これらを満たすことによって、はじめて経費として計上できるので事前にしっかりと条件を把握しておくことが重要です。
従業員の健康診断の勘定科目
従業員の健康診断や人間ドックの勘定科目は「福利厚生費」になります。
ここで重要なのが健康診断受診者には以下の対象となる項目があるということです。
- 契約期間が1年以上の従業員
- 週の労働時間数が所定労働時間4分の3以上である従業員
また、これらの条件を満たした従業員に義務である健康診断を受けさせない場合、労働基準監督署の指導が入ることがあります。
最悪の場合、50万円以下の罰金を課せられる可能性があるので、しっかりと対策することが重要です。
個人事業主が医療費控除をすることは可能
ここまで、個人事業主が医療費を経費にできないことをお伝えしてきました。
しかし、一定の条件を満たせば、医療費控除という形で控除を受けることができます。
では、医療費控除とは何か、その計算方法や対象となる条件などを解説していきます。
医療費控除とは?
医療費控除とは、所得税や住民税などの税額控除のことです。
1月1日〜12月31日までの1年間に自分自身や家族などが支払った医療費を所得などから差し引き、控除できる制度のことを言います。
対象となる条件は以下の通りです。
- 所得の合計金額が200万円以上あり、1年間で10万円を超えた医療費を支払った場合
- 所得の合計金額が200万円未満で、1年間で所得合計金額5%を超えた医療費を支払った場合
- 控除できる額の上限は200万円
引用元:医療費を支払ったとき|国税庁
医療費控除の適用要件
医療費控除が適用されるかどうかを知るためには、まず以下の3つの要件を確認しましょう。
- 対象期間
- 対象者
- 支払った医療費の内容
どのような医療費が対象となるかは後述しますが、まずは対象期間と対象者について説明します。
医療費控除の対象期間
医療費控除の対象となる期間は、基本的には1年間です。具体的には、その年の1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が対象となります。
例えば、2023年の医療費控除を受ける場合は、2023年1月1日から同年12月31日までに支払った医療費について申告します。
この控除を受けるためには、支払った医療費の合計が年間で10万円(所得によっては10万円未満でも可)を超える必要があり、超えた部分について税額控除を受けることができます。支払った医療費の領収書は、確定申告を行う際に必要になるので、保管しておく必要があります。
ただし、控除の対象にならない医療費もありますので、事前に確認が必要です。たとえば、美容整形や健康診断、予防接種などは対象外です。
また、公的保険からの補償を受けた部分や、生命保険等からの給付金を差し引いた額が実際の控除額となります。医療費控除は、医療費の支出が多かった場合に税金の負担を軽減するための非常に有益な制度です。
医療費控除の対象者
対象者は納税者本人、または配偶者や子供といった生計を一にする扶養親族となります。
「生計を一にする」は必ずしも同居である必要がありません。
別居であっても通学や勤務の都合で別居しており、仕送りなどで生活費を共有して生活している場合は対象となります。
医療費控除額の計算方法
それでは、医療費控除額の計算方法について見ていきましょう。
医療費控除の申請には所得によって計算方法が異なります。
対象の違いは所得の合計が200万円以上と200万円未満になり、式は以下の通りです。
【所得の合計金額が200万円以上の場合】 1年間の医療費の合計金額 ー 保険金などで補填された金額 ー 10万円 |
【所得の合計金額が200万円未満の場合】 1年間の医療費の合計金額 ー 保険金などで補填された金額 ー 所得合計金額の5% |
ここで注意したいのが医療費の総額から医療保険や健康保険などの保険金を引いた金額で計算しなければならないことです。
補填された金額を把握し、忘れずに計算することが大切になります。また、医療費の中でも対象になるものとならないものがあるので、以下で解説します。
医療費控除の対象となる費用
こちらが医療費控除の対象となるものの一覧です。
項目 | 内容 |
診療・治療 | 病院、診療所、歯科医院などで支払った費用 |
介護 | 介護士等による喀痰吸引などの介護、介護保険の対象となる施設や居宅サービスにかかる費用 |
交通費 | 医師などの送迎や通院にかかった交通費 |
リハビリ・マッサージ | 指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師などによる治療を目的とした施術費 |
医薬品 | 治療を目的とした市販医薬品、医師などから処方された医薬品の購入費 |
入院費 | 入院時の部屋代、食費、保健師や看護師などによる世話費 (分べんなどの急を要した収容も含む) |
医療用具 | 治療を目的とした医療器具または、義手、義足、松葉づえ、義歯や補聴器などの購入費 |
このように医療費控除の対象になるものは健康を害した際への医療行為や医薬品、その他それらに直接関わる費用が対象となっています。
医療費控除の対象にならない費用
続いて、医療費の対象にならないものの一覧です。
項目 | 内容 |
診療・治療 | 美容整形などの外見を変えるといった手術費、健康診断の費用 |
交通費 | タクシー代(公共機関が使えない場合は除く)、自家用車で通院した場合の駐車場代や燃料費 |
医療用具 | 治療に直接関係のないメガネや補聴器などの購入費 |
医薬品 | 予防や健康増進を目的とした治療とは直接関係のないものの購入費 |
入院費 | 親族などに支払う世話費、謝礼 |
介護 | 親族などに支払う世話費、謝礼 |
こちらは医療費控除の対象になるものと比較し、私的の事情で行った医療行為やその他、それらに関わるために発生した費用になります。
領収書は保管して確定申告を
現在、確定申告時に医療費控除を受けるための領収書の提出は不要です。
少し前までは領収書をまとめ、その領収書を確定申告書に添付するなどかなりの手間がかかりました。
しかし、平成29年の税制改正によって領収書の提出が不要になり、簡単に手続きできるようになったのです。
その代わりに明細書といって、1年間でかかった医療費や支払先などを記載して提出する必要があります。
また、領収書自体が不要になったという訳ではなく確定申告の後、5年間保管しておく必要があるので注意が必要です。
個人事業主の常備薬は経費になる
個人事業主が事務所や従業員用に備えている常備薬は、経費として計上できる場合があります。
しかし、用途によっては経費にならない場合もあるため、注意が必要です。
本章では、個人事業主の常備薬が経費になる条件について解説します。
経費になる置き薬
個人事業主の事務所や店舗における常備薬は、経費として計上できます。
対象となるのは、従業員や顧客が怪我をした際に使用する薬です。
ただし、特定の社員向けに購入した場合、福利厚生費には該当しません。
常備薬の購入費用は「福利厚生費」として計上されるため、全ての社員が利用できる一般的な医薬品を備えることが望ましいです。
これにより、適切な経費管理が可能となります。
経費にならない置き薬
個人事業主が自宅や事務所に備えている置き薬は、自分自身や家族などに使用する場合は、経費にはなりません。
ただし、事業に関連する業務で使用する置き薬については、経費に計上することができます。
常備薬の使用用途によって経費の扱いが異なるため、確認が必要です。
常備薬の勘定科目はどうする?
「常備薬」は、条件に合致すれば経費として計上できます。しかし、常備薬の勘定科目は使用目的によって異なります。
例えば、クライアントに提供するために置いている常備薬と、従業員が使用するための常備薬では、経理上の勘定科目を分けることになります。
ここでは、常備薬の目的に応じた勘定科目について詳しく説明します。
クライアントのために使用する場合
常備薬がクライアントのために使用するものである場合、その費用は「消耗品費」の勘定科目に計上されます。
消耗品費は、事業活動に必要な物品を消耗する際に発生する費用を計上する勘定科目であり、一般的に経費の一部として認められます。
このように経費として計上された費用は、事業の収益から控除されることになり、税金の計算において重要な役割を果たします。
クライアントの来客に備えて、必要な薬を常備しておくことは、良好なビジネスパートナーシップを構築するためにも重要です。
クライアントのために常備薬を購入する場合には、必ず消耗品費として計上しましょう。
従業員に使用する場合
常備薬を従業員が使用するために購入した場合は、「福利厚生費」として計上します。
福利厚生費は、従業員に提供される福利厚生費用を計上するための科目で、保険料や社員旅行費用などもこれに含まれます。
ただし、従業員がいない個人事業主の場合は、福利厚生費の勘定科目を使用することができません。
そのため、常備薬の費用を経費として計上するためには、クライアント用として購入しなければなりません。
常備薬は、従業員の健康管理のために必要な物品です。業務をする上で怪我をした場合などにすぐに対処できるように、常備薬や救急用品を備えておくといいでしょう。
個人事業主が常備薬を仕訳する際の注意点
個人事業主が常備薬を経費として計上できる条件とその際の勘定科目について説明しました。
上述した通り、常備薬は使用する目的に応じて勘定科目が異なります。
ここでは、個人事業主が常備薬を仕訳する際の注意点について詳しく説明します。
福利厚生費は従業員がいる場合のみ使用できる
個人事業主が自分自身のために常備薬を購入する場合、福利厚生費の勘定科目は使用できません。
この勘定科目は、従業員に対する福利厚生費用を計上するために使用されるため、従業員のいない個人事業主には適用されません。
常備薬を経費として仕訳する際には、消耗品費などの適切な勘定科目を選択する必要があります。
また、事業目的や用途に合わせて勘定科目を選択し、正確に計上することが大切です。
自分の分と区別する
個人事業主が常備薬の経費計上を行う際には、自分の分と事業用の分を明確に区別することが肝要です。
事業用の分については、経費として計上することができます。
一方、自分で使用する常備薬に関しては、個人の支出として扱われるため、事業の経費として計上することはできません。
自分の分と事業用の分を混同してしまうと、経理処理が複雑になります。
また、区別が不明確だと税務署から指摘を受けることもあるため適切な管理が不可欠です。
ただし、事業の経費としては計上できなくても、個人事業主の所得に対する医療費控除としては該当しますので、そちらを活用しましょう。
一般的で緊急性が高い薬を用意する
常備薬を用意する際には、一般的で緊急性が高い薬を中心に用意することが大切です。
例えば、風邪薬や消炎剤、痛み止め、アレルギー対策の薬、胃腸薬などが挙げられます。
一方で、整腸剤や栄養剤などは置き薬としてはふさわしくありません。
また、特定の個人のために用意した薬の支出は、経費になりづらいため、誰にでも使用できる一般的な薬を準備することが好ましいです。
専門的な薬剤については、自己判断で用意することは避け、必要に応じて医師や薬剤師に相談することが重要です。
まとめ
- 個人的な支出として扱われることから、個人事業主は自身の医療費を事業費にはできない
- 自己の健康診断費用も個人事業主が経費として計上することは税法により認められていない
- 従業員に健康診断を義務付ける法的条件を満たす場合、その費用は事業経費として認められる
- 個人事業主は支払った医療費に医療費控除を適用し、所得税額を減額することが可能
- 医療費控除には、美容治療の費用のように控除の対象外のものも存在する
医療費控除は、自分や家族の医療費が増えた場合に税金の還付を可能にする制度で、最高200万円までの控除が適用されます。
手続きは一見複雑に見えますが、実際はそれほど難しくはなく、理解しておくと緊急時に迅速に対応できます。そのため、医療費控除について知っておくことは、万が一の事態に備える上で非常に有益です。