個人事業主が税務調査を受ける確率は、どの程度なのでしょうか。
税務調査と聞くと、事業のことを根ほり葉ほり調べられ、税金を過度に徴収されるというイメージがあるかも知れません。
しかしながら、実際の税務調査では適切に対応ができれば、本来支払うべき税金以上の額を求められることはありません。
本記事では、税務調査について記載をします。
個人事業主に対する税務調査について、くわしく知りたい人のお役に立てれば幸いです。
税務調査とは
税務調査とは、申告した税額に間違いがないかを確認する、税務署の事実確認です。
「税務調査に先立ち、原則として課税庁が事前通知をおこなうこと」とされていますが、課税の公平確保の観点から一定の場合は事前通知がおこなわれません。
個人事業主が税務調査を受ける確率
税務調査には任意調査と強制調査があり、巨額の脱税の疑いがなければ任意調査がおこなわれます。
任意調査の場合は、調査をおこなう旨の事前連絡が入ります。
任意という言葉が使われていますが、税務署の職員には質問検査権が付与されています。
正当な理由なく調査に応じない場合や、虚偽の申告をしたときは、罰則の対象になるため注意しましょう。
もし、任意調査の対象になったら、誠実に対応し、質問に的確に答えられるように準備をしておきましょう。
では、個人事業主が税務調査を受ける確率はどの程度なのでしょうか。
平成30年(2018年)に公表された国税庁の資料によると、平成元年度の法人に対する税務調査実施率は8.5%ですが、平成28年度は3.2%と半分以下の割合に減少しています。
個人事業主も同様で、税額のある申告を行った納税者のうち税務調査を受けた人の割合は、平成元年度は2.3%ですが、平成28年度には1.1%と半分以下に減少しています。
とはいえ、100人に1人は調査を受けていることになり、決して少ない数ではありません。
また、国税庁による令和5年(2023年)の状況調査資料によると、個人の所得税に関する直近の調査件数は、前年599,747件から637,823件へ増加しています。
個人事業主は、自分が税務調査を受ける可能性も充分にあると考えておいたほうがよいでしょう。
個人事業主が税務調査で修正手続きを命じられる確率
次に、個人事業主が税務調査で納税額を修正する手続きを命じられる確率について、解説します。
修正申告の場合
税務調査を受けた個人事業主のうち、どの程度の人が修正申告書を提出しているのでしょうか。
誤りを指摘されて修正申告書を提出する人は、調査を受けたうちの約80%です。
重加算税の支払いの場合
税務調査を受けた個人事業主のうち、どの程度の人が重加算税対象と認定されているのでしょうか。
意図的に実際の納税額よりも少ない額を申告した、事実の隠蔽や仮装をはかった、などの判断をされ、重加算税の対象となった人は、調査を受けたうちの約20%です。
税務調査の対象になりやすい個人事業主の特徴
次に、税務調査の対象になりやすい個人事業主の特徴を解説します。
開業から3年以上経っている
基本的に税務調査の対象になる確率は、起業・開業後に年数が経過するほど高くなります。
特に3年以上経過している個人事業主は、これまで正しく税務申告しているか、会計処理に緩みがないかをチェックされる可能性があります。
原則として税務調査は過去5年分さかのぼって調査可能なので、起業・開業してから3年〜5年に1度、税務調査の対象になる可能性が高いと覚えておきましょう。
売上が年間1,000万円以上ある
売上高が年間1,000万円以上ある場合、個人事業主には消費税の納税義務が発生します。
所得税に加えて消費税も納税しているため、税務調査の対象になる可能性が高くなるでしょう。
また、1,000万円の売上にわずかに足りない場合、実は消費税の課税事業者なのではないかという観点で、調査対象となるケースがあります。
例年より売上が大きく変化している
売上を過少申告するような不審な動きがある場合、税務調査の対象になる可能性が高くなります。
たとえば、自分に報酬などを支払っている取引相手が所得税の源泉徴収をしている場合、その取引先は一年間の取引内容を記載した支払調書を税務署に提出しています。
自分の売上を税務署が把握している状態なので、売上を過少に申告すると、嘘がわかってしまいます。
売上の過少申告は税務署にみつかる可能性が高いため、申告は正しくおこないましょう。
また、同じように事業を続けているはずなのに、例年より大きく売上が減り、納税額が急に少なくなっている年があると、実態を確かめるために税務調査の対象となる可能性が高くなります。
特別なことがあった年は特に注意をして、売上や経費に関する資料を丁寧に保管しておくようにしましょう。
シェアリングエコノミニーに関する売上が多い
シェアリングエコノミーとは、個人や企業が持つさまざまな資産を、インターネットを介して共有し合う、新たな経済のスタイルのことです。
民泊やシェアサイクル、スキルを提供する副業など、新たなサービスが次々に生まれています。
シェアリングエコノミーのような新たな分野の経済活動に関わり、インターネット取引をおこなう個人に対して、国税庁は調査を積極的に実施しています。
平成30年度の時点でも119件(前年度74件)の実地調査がおこなわれていましたが、令和4年度は1,324 件(前年度 839 件)の実地調査をおこなっており、確実に件数が増えています。
海外投資に関する収入が多い
海外投資などをおこなっている個人事業主に対しても、税務調査が積極的におこなわれています。
平成29年度の実地調査件数は 4,616件(前年度3,145件)、令和4年度は2,784 件(前事務年度 2,043 件)です。
件数を見ると減っているように思われるかもしれませんが、1件当たりの申告漏れ所得金額は過去最高だった前年を上回り 3,720 万円(前年 3,690 万円)と、海外投資以外のすべての所得税の実地調査の1件当たり1,456万円と比べて2.6倍という高水準です。
税務署にマークされやすい業種
過去の実績で不正が多く見つかっている、税務署からマークされている業種では、税務調査の対象となる可能性が高くなります。
具体的には、娯楽、飲食、土木工事、廃棄物処理などですが、近年はプログラマーやシステムエンジニア、経営コンサルタント、ブリーダーなども上位に入っています。
こうした業種は不正発見の割合ランキングの常連になっているため、マークされやすいでしょう。
以前に税務調査を受けたことがある
過去に税務調査の対象だった場合、その後も正しく申告しているかを確認するために、税務調査される可能性があります。
税務調査の対象になった個人事業主は、再び税務調査の対象になったときも問題がないように対策しておくべきです。
税務申告をしていない
個人事業主のなかには、税務申告をしていない人もいます。
理由はさまざまですが、事業をおこなっているのに税務申告をしていないと、税務調査の対象となる可能性は高くなります。
例えば、年収が1,000万円を超えるフリーランスのカメラマンが、納税や申告に対する意識が希薄で1度も確定申告をしていなかったケースがありました。
その後、本来払うべき税金に加えて加算税と延滞税を納めたそうです。
今年は赤字のはずだから確定申告はしない、受け取っている報酬から源泉徴収がされているはずだから確定申告はしない、というような、曖昧な判断も控えましょう。
個人事業主ができる税務調査対策
最後に個人事業主ができる税務調査対策を解説します。
領収書の管理や日々の記帳をかかさない
確定申告をおこなったら、必要経費として計上した領収書などの書類を、7年間保存する義務があります。
日々の記帳はもちろん、個人の場合はプライベートな支出に関連する家事関連費も、事業に関する領収書と一緒に保管しておくべきです。
できるだけ詳細に申告書を記入する
税務調査で指摘を受けた場合に適切に対処するため、確定申告の際は不備がないかをよく確認し、申告書には詳細な記載をするように心がけましょう。
書面添付制度を利用する
書面添付制度とは、顧問先の確定申告書の作成に税理士がどのくらい関与し、各項目をどういった観点で確認したかを明示した書面を添付する制度です。
税理士の署名がされた確定申告書を提出するなら、どの方法でも同じだろうと思われるかもしれません。
しかし、税務調査の対象となる可能性は、書面添付された確定申告書と署名だけがされた確定申告書とでは、大きく異なります。
税理士に相談する
税務署から税務調査の連絡がくると、誰しも焦ってしまうでしょう。
しかし、慌てて誤った対応をすると、税務調査が長引いてしまい、精神的苦痛も増えます。
個人事業主が税務調査対策をするなら、税理士に相談するのもひとつの方法です。
まとめ
- 税務調査とは、申告した税額に間違いがないかを確認する事実確認
- 個人事業主が税務調査を受ける確率は、平成28年度で1.1%
- 個人事業主が税務調査で手続きを命じられる確率は、修正申告で約80%、重加算税の支払いで約20%
- 税務調査の対象になりやすい個人事業主の特徴は、開業から3年以上経っている人や売上が年間1,000万円以上ある人など
- 個人事業主ができる税務調査対策は、領収書の管理や日々の記帳をかかさないこと、できるだけ詳細に申告書を記入するなど
税務調査を受ける確率は決して高くはありませんが、対象になりやすい個人事業主もいます。
自分も調査を受ける可能性があるという前提で、日頃から注意しておくことが必要です。