個人事業主は売り上げの中から生活費を捻出しなければなりません。
では、その生活費を支払うと経費として計上できるのでしょうか。
また、記帳方法はどのようにすべきなのか、節税のために何をすればよいのか詳しく解説します。
個人事業主は生活費を経費にできる?
結論からいうと、個人事業主は生活費を経費として計上することはできません。
所得税では、家事による経費を「家事費」と呼んでおり、事業と無関係の個人的な生活費は必要経費とみなされないのです。
その代わりに、プライベートなど事業所得以外の動きを勘定する「事業主勘定」を使用します。
個人事業主は事業用とプライベート用の2つの財布を持っていると考えるとよいでしょう。
そして、その2つを明確に分けることが求められています。
なぜなら、事業所の計算では個人事業に関する売上高、仕入高、経費だけを抽出して利益を計算するからです。
その中に、事業と全く関係のないプライベートの支出が含まれていた場合、正確な計算もできず、正しい所得税の金額の計算もできません。
事業主勘定とはそのようなことが起きないよう、事業用とそれ以外の取引を区別するための勘定科目なのです。
また、個人事業主が事業用の口座より、必要経費とならない生活費を支払った場合には、その家事費部分については「事業主貸」勘定を使用します。
この事業主貸とは個人事業主が、事業資金を生活費として使うときの勘定です。
逆に個人事業主が家計から事業資金を補充した場合や、事業の経費をプライベートのお金から使った場合は「事業主借」勘定を使用します。
個人事業主が生活費を記帳する方法
個人事業主が事業とは関係のない生活費を支払った場合には、その家事費部分には「事業主貸」勘定を使用します。
ただし、その支出が「業務」に関係してかつ「家事」に関わる物を「家事関連費」といいます。
「家事関連費」の中から事業分の割合を計算し振り分け、必要経費とします。
これを「家事按分(かじあんぶん)」といいます。仕事とプライベートをきちんと分けて仕訳されていれば節税にもつながります。
事業用とプライベート用に分けている場合の仕訳
例として、自家用車を仕事に使っているとしましょう。
1か月のガソリン代が15,000円で、そのうち20日間を業務に使用しているとします。
その場合の車両経費は「15,000円×20日間÷30日」で計算でき、以下の表のようになります。
借方 | 貸方 | ||
車両費 | 10,000円 | 現預金など | 15,000円 |
事業主貸 | 5,000円 |
事業用とプライベート用に分けていない場合の仕訳
では、同じケースで家事按分ができていない仕訳の場合はどうなるのでしょうか。
借方 | 貸方 | ||
事業主貸 | 15,000円 | 現預金など | 15,000円 |
以上の表のように按分割合が不明のため、必要経費を求めることができないため経費としての仕訳をすることができません。
そのため、すべて生活費としての扱いになってしまいます。
個人事業主が事業主貸や事業主借を使う具体例
では、事業主貸や事業主借を具体例を挙げて解説していきましょう。
事業主貸について
事業主貸とは、事業とは関係なく個人的な使用をしたときに使われる勘定科目です。
個人事業主が事業用に使用している口座から、自分の生活費のためにお金を引き出した場合に適用されます。
(例)事業用普通口座から生活費を10万円引き出したケース
借方 | 貸方 | ||
事業主貸 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
(例)事務所兼自宅の家賃を普通口座より支払ったケース
家賃10万円、事務所スペースは全体の30%、家事按分すると「事業3:プライベート7」となる。
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | 30,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
事業主貸 | 70,000円 |
事業主借について
事業主借とは、個人事業主が家計から事業資金を補充した場合や、事業以外の所得を得た際に使用する勘定科目です。
(例)事業資金の不足により、個人口座より10万円振り込んだケース
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 100,000円 | 事業主借 | 100,000円 |
事業主貸とは「事業のお金を事業主に貸す」、事業主借とは「事業のお金を事業主に借りる」ということです。
「貸」「借」で少しわかりにくいですが、例を参考にしっかりと押さえておきましょう。
個人事業主の確定申告時の事業主貸・事業主借の会計処理方法
確定申告で青色申告を行う場合、青色決算報告書の提出が必要となります。
青色決算報告書の中の賃借対照表に、事業主貸、事業主借を記入する欄があるので、それぞれの集計した金額を記入します。
決算を終えて次の年の帳簿付けを始める際には、事業主貸と事業主借が0になっている必要があります。
確定申告の際には両者を相殺し、残高の差額を「元入金」に振り替える作業を行います。
元入金とは、事業主が用意した開業資金や準備金のことです。
事業の売り上げが赤字になったり、生活費として多くを使ってしまったりすると元入金がマイナスになることがあるので注意しましょう。
個人事業主が節税のためすべき生活費の管理方法
生活費と事業経費をきちんと区別しないと税金が高くなります。
では、どのように区別をするのかその方法を解説します。
通帳や現金を事業用とプライベート用に分ける
通帳や現金を、事業用とプライベート用できっちりと分けておきましょう。
分けることで、事業に使用したお金を容易に把握することができ、利益や税額の把握もできます。それにより、節税対策も楽に行えるでしょう。
レシートや通帳にマークを入れる
もし、通帳や現金を事業用、プライベート用と分けることが困難な場合は、あとから識別できるようにレシートや通帳に事業経費のみ、ペンなどでマークしておきましょう。
こうすることで、事業に使用したお金を簡単に把握することができます。
個人事業主が給与を経費にする方法
個人事業主の給与は経費にすることができるのでしょうか。
結論からいうと、個人事業主の給与は経費に計上することはできません。
では親族や、それ以外の人に支払う給与は経費になるのでしょうか。
また、自身への給与を経費にすることはできないのか、詳しく解説します。
親族への給与の場合
原則、親族は生計が同じという解釈の元、給与を経費にはできません。
しかし「青色事業専従者給与」であれば親族への給与を経費にすることができます。
青色事業専従者給与とは青色申告をしている個人事業主が、青色専従者に対して支払った給与を経費にできる制度のことです。
家族を青色専従者にするためには次の要件を満たしていなければなりません。
青色事業専従者に関する届出書には自分で決めた給与を記載し、それを超えないように支払うことで、親族への給与を経費にすることができます。
親族以外への給与の場合
親族以外、つまり一般の従業員に支払う給与は経費にすることができます。
雇用形態に関係なく、従業員に対して支払われる給与は「給料賃金」という勘定科目で経費として計上します。
自分への給与の場合
個人事業主として一定の収益があり、生活費を経費計上して税金対策をしたいと考えているのならば、法人化の検討をおすすめします。
法人化することで、自身の給与を役員報酬として経費に計上できます。
法人化することで、経費計上できる金額が増え、大きな節税効果を得ることができるでしょう。
まとめ
生活費や給与を経費として計上する方法や記帳方法をご紹介してきました。まとめると以下のような方法となります。
- 生活費を経費として計上することはできない
- 事業資金から生活費を支出した場合は事業主貸を使って帳簿の処理を行う
- 事業用とプライベートのお金は分けて管理することが必要
- 親族への給与を経費にしたい場合は「青色事業専従者給与」制度を利用する
- 自身の給与を経費にしたいのであれば法人化を検討する
まずは、事業用とプライベートのお金を分けて管理するところからはじめ、きちんと帳簿の処理を行い、節税に取り組んでいきましょう。