個人事業主が一定の収入を得た場合、確定申告が必要になります。
そして、確定申告の方法には、大きく分けて青色申告と白色申告があります。
しかし、個人事業主になったばかりの方は、「青色申告と白色申告の違いは何?」や「どちらがお得なの?」と、疑問を抱くことがあるかもしれません。
この記事では、青色申告と白色申告の違いや、それぞれのメリット・デメリットについてわかりやすく説明します。
どちらの申告方法を選ぶかによって、提出書類や帳簿の記入方法、税制上の優遇措置が異なるため、それぞれの特徴を理解して、申告方法を選ぶ際の参考にしてください。
この記事を監修した人
税理士:佐藤大貴
監修者プロフィール
上場企業の経理や事業管理として、10年以上業務に従事しながら税理士資格取得を目指す。
2022年に税理士資格を取得し、2023年税理士登録をおこない、4月に独立開業をする。
税理士業務もさることながら、企業での業務改善や学生に対する租税教室など、幅広く業務に携わっている。
青色申告と白色申告にはどのような違いがある?
青色申告と白色申告には、どのような違いがあるのかを説明します。
税制上の優遇措置
青色申告をすると、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けることができます。
これに対し、白色申告では基本的に税制上の優遇措置を受けることはできません。
ただし、青色申告で最大65万円の控除を適用するには、e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存が必須です。
これらをおこなわない場合、その控除額は最大55万円となります。
申請の有無
青色申告をおこなうためには、「開業届」と「青色申告承認申請書」を事前に提出する必要があります。
青色申告承認申請書の提出期限は、青色申告をおこなう年の3月15日までです。
ただし、新規事業をその年の1月16日以降に開始した場合、開業日から2ヵ月以内であれば、3月15日を過ぎても青色申告承認申請手続きが可能です。
白色申告の場合、特に事前の申請は必要ありません。
提出書類
青色申告と白色申告では、確定申告のときに提出する書類が異なります。
また、青色申告にも65万円または55万円の控除と、10万円の控除があり、どちらの控除を受けるかによって提出書類は変わります。
青色申告(65万円または55万円控除の場合)に必要な書類は、以下のとおりです。
提出書類 |
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保存帳簿 |
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保存書類 |
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青色申告(10万円控除の場合)に必要な書類は、以下のとおりです。
提出書類 |
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保存帳簿 |
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保存書類 |
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白色申告に必要な書類は、以下のとおりです。
提出書類 |
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保存帳簿 |
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保存書類 |
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帳簿類は税務署から問い合わせがあった場合、いつでも提出できるように原則7年(ものによっては5年)の保存が義務付けられています。
確定申告後も必ず保管しておきましょう。
参考:商工会議所地区|小規模事業者持続化補助金 申請に必要な確定申告書類
参考:国税庁|はじめてみませんか?青色申告(P9~P11)
記帳方法
青色申告と白色申告は、記帳方法も異なります。
65万円の青色申告特別控除を適用するには、「仕訳帳」と「総勘定元帳」を、必ず複式簿記で作成する必要があります。
複式簿記とは、2つの勘定科目で資金の出入金とその増減の理由を記載し、正確な会計記録をするための方法です。
青色申告でも10万円の控除を受ける場合や、白色申告の場合は、複式簿記ではなく取引内容を1つの勘定でのみ記録する単式(簡易)簿記でかまいません。
複式簿記と単式(簡易)簿記の記入例は以下のとおりです。
たとえば、20xx年10月1日、フライヤー代金1,000円を現金で支払った場合、青色申告で扱う複式簿記では、以下のような仕訳を作成します。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20xx年10月1日 | 広告宣伝費 1,000 | 現金 1,000 | フライヤー印刷代 |
複式簿記の場合、借方(左側)と貸方(右側)の金額は必ず一致します。
白色申告・青色申告10万円控除で扱う単式(簡易)簿記では、以下のような記録をします。
日付 | 項目 | 入出金額 | 摘要 |
---|---|---|---|
20xx年10月1日 | 広告宣伝費 | -1,000 | フライヤー印刷代 |
不動産所得要件
不動産所得がある場合に、65万円の青色申告特別控除を受けるためには、貸家は5棟以上、アパートだと10室以上の規模でおこなう必要があります。
駐車場は5台でアパート1室に該当します。
10万円の青色申告特別控除の場合、マンションの1室でも控除を利用できます。
白色申告の場合はもともと控除を受けることができないため、要件はありません。
参考:国税庁|事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
e-Taxの使用義務
65万円の青色申告特別控除を利用するためには、e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存が必要です。
もし上記の方法ができない場合には、65万円の控除は適用されず、55万円の特別控除となります。
65万円と55万円では、控除額に10万円もの差がでるので、e-Taxによる申告(電子申告)や電子帳簿保存をおすすめします。
e-Taxの場合、インターネット上でいつでも確定申告が可能になるため、わざわざ税務署に足を運ぶ必要がなく便利です。
自分のe-Taxのサイトから過去の申告等を閲覧できるメリットもあります。
個人事業主が白色申告をするメリット・デメリットについて解説
白色申告を利用するメリット・デメリットについて説明します。
白色申告のメリット
白色申告をするメリットには、以下の2点が挙げられます。
- 手続きが簡単
- 事前の申請が必要ない
1つずつ説明します。
手続きが簡単
白色申告は、手続きがシンプルで簡単です。
確定申告書への記入も、収支内訳書へ売上や経費を記入していくだけなので、難しくありません。
帳簿付けは必要ですが、単式(簡易)簿記での記帳でよいため、複式簿記と比べて簡単に作業を済ませられます。
事前の申請が必要ない
青色申告を利用する場合には事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要になりますが、白色申告の場合は特別に申告する必要はありません。
つまり、開業届のみの提出の場合、自動的に白色申告になります。
白色申告のデメリット
白色申告のデメリットには、以下の2点があります。
-
- 特別控除を受けられない
- 赤字の繰り越しができない
それぞれ説明します。
特別控除を受けられない
白色申告は確定申告を手軽におこなえますが、青色申告で受けられる特別控除を適用できません。
そのため、白色申告の人と青色申告の人の所得が同じ場合は、白色申告の方が税負担が大きくなります。
白色申告は青色申告と比べ簡単ですが、帳簿づけと書類の保管は必要なため、10万円の青色申告特別控除の単式(簡易)簿記と実質変わりません。
「複式簿記が難しいため青色申告をしない」と思う方は、青色承認申請書を提出し、単式(簡易)簿記記帳の10万円の青色特別控除を選ぶのも1つの方法です。
赤字の繰り越しができない
青色申告では赤字を3年間繰り越せますが、白色申告では赤字の繰り越しができません。
青色申告では赤字の繰り越しが可能なので、赤字の翌年が黒字になった場合に前年度の赤字を繰り越しで、黒字の年の税負担を軽減することができます。
白色申告では赤字の繰り越しは、原則認められないため、赤字の翌年が黒字の場合でも、青色申告のように税負担の軽減は適用されません。
個人事業主が青色申告をするメリット・デメリットについて解説
青色申告を利用するにあたっても、メリット・デメリットがあります。
それぞれ説明します。
青色申告のメリット
青色申告を受けるメリットは、以下の6点が挙げられます。
- 青色申告特別控除を受けられる
- 家族への給与を経費にできる
- 赤字を3年間繰り越せる
- 減価償却の特例を受けられる
- 家事関連費を経費計上できる
- 貸倒引当金を設定できる
1つずつ解説します。
青色申告特別控除を受けられる
青色申告の大きなメリットは、青色申告特別控除を受けられることです。
特別控除では、所得から65万円(e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存をおこなわない場合は、最大55万円)を差し引きできます。
ただし、記帳方法が少し複雑な複式簿記での記録が必要です。
青色申告でも記帳が簡単な単式(簡易)簿記にする場合は、10万円の控除が適用されます。
家族への給与を経費にできる
原則として生計を一にする親族への支払いは、経費にすることができません。
しかし、青色申告には、青色専従者給与の規定があり、条件を満たせば生計を同一にする家族への給料を経費にすることができます。
労務の対価として適切な範囲内であれば、特に上限額に規定はありません。
経費として所得から控除できるため、節税につながります。
この制度を利用するためには、その年の3月15日までに、所轄の税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しましょう。
青色申告で、支払った給与を全額経費にできる「青色事業専従者給与」として認められるための条件は、以下のとおりです。
- 給与を支払う相手が、同一生計の配偶者かその他の親族である。
- その年の12月31日時点で、年齢が15歳以上である。
- その年に、6か月を超える期間(または事業に従事可能な期間の2分の1を超える期間)その事業に従事している。
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出している。
- 届出書に記載されている方法、記載されている金額の範囲内で支払われている。
- 労務の対価として、妥当な範囲の金額である。
赤字を3年間繰り越せる
青色申告にすると、3年間にわたって、赤字を繰り越すことが可能です。
個人事業主として、毎年黒字で経営できることは理想的ですが、赤字の年があってもその損失を繰り越すことにより、黒字の年に支払う税金を軽減できます。
たとえば、1年目、2年目にそれぞれ50万円の赤字、3年目に100万円の黒字が出た場合、1~2年目は赤字のため所得税がかからず、3年目は1年目と2年目の赤字を繰り越せるため、相殺されて所得税の支払いが不要です。
しかし、損失の繰越しを適用するには毎年確定申告が必要になるため、赤字の場合でも確定申告は忘れずにおこないましょう。
減価償却の特例を受けられる
少額減価償却資産の特例として、1つ30万円未満の減価償却資産は、購入した年に一括で経費計上できます。
通常は10万円以上の備品に関しては、耐用年数に応じた期間で、減価償却をして経費にしていきます。
しかし、青色申告の場合、パソコンなど事業に用いる備品で30万円未満の場合、減価償却をせずに一括で経費計上が可能です。
家事関連費を経費計上できる
個人事業主の方だと、自宅を住居兼事務所として使っている場合も多いのではないでしょうか。
個人用と事業用の両方で利用しているものに関しては「家事按分(かじあんぶん)」を利用し、家賃や光熱費などの家事関連費の一部を経費として計上可能です。
家事按分とは、個人用と事業用の両方で使用しているものの支出のうち、事業用の使用比率分を経費として計上することです。
例えば、10万円の家賃の部屋に住んでおり、部屋の2割分のスペースを事務所や作業場として使用しているなら、家賃のうち2万円を経費にすることができます。
光熱費や通信費なども同様に、家事按分で経費計上できます。
家事按分をする際は、合理的な算出方法をおこなってください。
貸倒引当金を設定できる
青色申告では、年末に残っている売掛金や貸付金などの売掛債権や金銭債権の5.5%(金融業は3.3%以下)の金額を、貸し倒れがあった場合の損失見込み額として、必要経費に計上できる貸倒引当金を利用できます。
貸倒引当金には、以下のものが対象となります。
- 商品販売時の売掛金
- サービス提供時の未収金
- 受取手形
- 事業での貸付金
ただし、貸倒引当金に計上した金額は、翌年戻入れ額として収入金額にする必要があります。
青色申告のデメリット
青色申告を利用するデメリットには、以下の3点が挙げられます。
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- 事前の申請が必要になる
- 複式簿記での記帳が必要になる
- 所得が48万円以下でも申告が必要になる
それぞれ解説します。
事前の申請が必要になる
本記事冒頭の「青色申告と白色申告の違い」でも述べていますが、青色申告を利用するには、事前に申請が必要です。
申請には期限も決められており、青色申告をする場合は、申告しようとする年の3月15日(その年の1月16日以降新たに事業を開始した場合は、開業日から2ヵ月以内)までに「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります。
なお、期限に間に合わなかった場合は、青色申告の適用は翌年からになります。
複式簿記での記帳が必要になる
こちらも上記と同様に、「青色申告と白色申告の違い」で触れていますが、青色申告の場合は「仕訳帳」と「総勘定元帳」を必ず複式簿記で作成しなければいけません。
複式簿記は、単式(簡易)簿記と比べて複雑なので、手書きやエクセルなどで作成する場合には、簿記の専門的な知識がなければ難しいでしょう。
したがって、会計ソフトの導入が必要になり、その分コストが発生します。
所得が48万円以下でも申告が必要になる
所得額が2,400万円以下であれば48万円の基礎控除が受けられるため、1年間の所得が48万円以下の場合は納税額が無く、確定申告が不要です。
しかし、青色申告を利用する場合は、その年の所得が48万円以下や赤字でも確定申告が必要になります。
確定申告をしないと青色申告のメリットである特別控除が受けられないことや、赤字を3年繰り越せる純損失の繰り越し控除が適用できないことに、注意してください。
参考:国税庁|タックスアンサー(よくある税の質問) No.1199 基礎控除
個人事業主が青色申告のデメリットを回避する方法とは
青色申告には、記帳の複雑さや所得の金額に関わらず確定申告をしないといけないなどのデメリットがあることを説明しました。
「いくら青色申告が得だといっても、難しそうだし、手間もかかるなら面倒だな」と思う方もいるでしょう。
しかし、会計ソフトを使うことでこのデメリットを回避できます。
例えば、複式簿記で記帳しないといけない帳簿付けも、会計ソフトがあれば、家計簿感覚で入力するだけで自動的に複式簿記の形へ変換してくれます。
そのため、専門的な簿記の知識がなくても問題ありません。
会計ソフトを事業用の銀行口座やクレジットカードとを同期すると、データ連携によって経費の自動入力も可能です。
さらに、確定申告書も自動的に作成されるので、e-Ttax(電子申告)を利用すれば家にいながら確定申告も済ませられます。
個人事業主が利用できる会計ソフトには、いくつか種類があるので、自分にあった会計ソフトを利用してみましょう。
以下の記事で会計ソフトの選び方やおすすめを解説しているので、あなたに合った会計ソフト選びに役立ててください。
個人事業主には会計ソフトが必要?初心者の選び方やおすすめを解説
まとめ
- 青色申告を受けるには青色申告承認申請書の提出や帳簿の複式簿記での記帳が必須
- 開業届のみ提出した場合、自動的に白色申告になる
- 青色申告では、白色申告にはないさまざまな特典が受けられる
- e-Taxによる申告(電子申告)または電子帳簿保存をおこなうことで、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けられる
- 会計ソフトを利用すれば、簿記の知識がなくても帳簿付けが可能
この記事では、青色申告と白色申告の違いや特徴について解説しました。
青色申告は白色申告に比べ条件があるため手間はかかりますが、最大65万円の青色申告特別控除をはじめ、多くの特典が受けられます。
白色申告は青色申告に比べて簡単だと言われていますが、記帳や帳簿の保存が必須になるため、青色申告の10万円控除とほとんど変わりません。
どちらの申告方法で確定申告をするか迷われている場合は、白色申告よりも節税効果の大きい青色申告をおすすめします。
会計ソフトを利用すれば、専門的な簿記の知識がなくても帳簿づけが可能ですので、自分に合った会計ソフトを活用し、青色申告をしてみましょう。
個人事業主の青色申告や白色申告に関するよくある質問5選
青色申告や白色申告で、よくある質問にお答えします。
開業届を出さないと白色申告になる?
開業届を提出せずに確定申告をした場合、自動的に白色申告が適用されます。
青色申告をするためには開業届と青色申告承認申請書の提出が必要となり、提出期限ももうけられています。
もし青色申告を希望されている場合は、忘れずに手続きをしてください。
白色申告は年収いくらまでできる?
白色申告をする際、年収に決まりはありません。
しかし、年収が多くなると税金の負担も増加します。
年収が多い人ほど、節税効果のある青色申告がいいでしょう。
青色申告をすると何が安くなる?
青色申告をすると、最大65万円の特別控除などが適用できるため、同じ所得額で白色申告をするよりも、負担する所得税額が下がります。
また、これにより、所得金額によって決まる住民税や健康保険料も抑えられます。
青色申告をやめるにはどうする?
青色申告をやめて白色申告に戻す場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を所轄の税務署へ提出しましょう。
提出期限は、青色申告を取りやめようとする年の翌年3月15日までと定められています。
提出方法は、税務署への持ち込みでも郵送でも構いません。
e-Taxでも提出可能です。
確定申告をしないとどうなる?
確定申告をしなければ、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。
また、無申告や所得隠しなどは刑事罰に課される場合もあります。
確定申告の対象者が確定申告をすることは義務です。
申告方法を確認し、忘れずに確定申告をしましょう。