個人事業主が他者の協力を得る際には、報酬の支払い方法や外注費の扱いに注意が必要です。
個人事業主にとって注意すべき重要なポイントは、外注費の源泉徴収の有無、外注費と給与の違い、手渡しで支払った場合の記録と領収書の保管方法など多岐にわたります。
本記事では、これらの注意点に対する具体的な対応方法、家族や知人からの手伝いやアルバイト代の経費計上についてもくわしく解説します。
個人事業主の方はぜひ参考にして、ご自身のビジネスに役立ててください。
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この記事を監修した人
税理士:佐藤大貴
監修者プロフィール
上場企業の経理や事業管理として、10年以上業務に従事しながら税理士資格取得を目指す。
2022年に税理士資格を取得し、2023年税理士登録をおこない、4月に独立開業をする。
税理士業務もさることながら、企業での業務改善や学生に対する租税教室など、幅広く業務に携わっている。
個人事業主が仕事を第三者に依頼した際の勘定科目
個人事業主が外部に仕事を依頼する場合、支払う報酬は外注費と給与の2つの選択肢があります。
しかし、この2つの選択肢である勘定科目には税務上の扱いに違いがあり、混同すると税務署で指摘を受ける恐れがあります。
この章では個人事業主が外部に仕事を依頼する際の勘定科目と、給与と外注費の税務上の違いを解説します。
外注費
個人事業主が自社業務の一部を外部に委託する際、その費用は外注費として処理します。
外注費はホームページ制作や機器修理など、外部に委託することが必要な業務に関連する費用を含みます。
ただし、支払先が個人の場合には源泉徴収税の手続きが必要です。
業務内容によっては、源泉徴収が不要の場合もあります。
外注費は自社の従業員による業務を外部に委託した際に発生するため、税務上の取り扱いが異なります。
給与
給与は企業が自社の労働者に対して支払う報酬であり、労働契約に基づいて支払います。
個人事業主が従業員を雇用し、働く場合に給与を支払いますが、給与には源泉徴収税の手続きが必要で適切な申告をすべきです。
また、従業員に対する報酬として支払う給与には、年末調整や社会保険料の支払いも含みます。
従業員に適切な給与を支払うことは、労務管理において重要です。
外注費と給与の判断基準
下表にて外注費と給与の判断基準をまとめています。
判断基準 | 外注費 | 給与 |
業務が代替可能か | 代替可能 | 代替不可能 |
時間的拘束性 | 低い | 高い |
指揮監督 | 受けていない | 受けている |
材料費負担 | 自己負担 | 会社負担 |
成果物の損失 | 対価請求不可 | 対価請求可能 |
業務の代替可能性、時間的拘束性、指揮監督、材料費負担、成果物の損失の有無によって外注費か給与かが決まります。
業務の遂行において支配下にあるか、報酬が固定か、自己責任か、個人的な義務か、業務の継続性があるか、業務組織に参加しているかなどの観点も判断に影響します。
判断に迷った場合は契約書の内容や業務実態を総合的に判断し、専門家に相談するのも方法のひとつです。
参考URL:国税庁:大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)
参考外注費と給与の違いについては、こちらで詳しく解説しています。
個人事業主は外注費を払う際に源泉徴収は必要?
個人事業主が外注費を支払う場合、源泉徴収の義務があるかを理解することは重要です。
源泉徴収は支払時に一定率の金額を天引きして納付する制度であり、源泉徴収義務者でなければ支払調書の発行は必要ありません。
本章では、個人事業主が外注費を支払う際に注意すべき源泉徴収についてくわしく解説します。
源泉徴収とは
源泉徴収とは所得者が得た所得に対して、その支払者が源泉徴収税を計算して差し引いて納付する制度です。
具体的には、給与、報酬、利子、配当、不動産所得など特定の所得について、その支払者が税金を先に差し引いて納付することで、所得者が確定申告をする際に還付される税金の額が減ることがあります。
個人事業主が外注費を支払う場合には、支払者として源泉徴収義務者となり、支払金額から源泉徴収税を計算して差し引いて納付すべきです。
ただし、源泉徴収の対象となる金額の範囲や税率については、所得税法や関連法令に従って適切に判断する必要があります。
参考URL:国税庁 源泉徴収制度について
源泉徴収の義務があるか確認しよう
個人事業主が外注費を支払う場合、源泉徴収の義務があるかを確認する必要があります。
また、源泉徴収義務者は法人だけでなく個人事業主も対象になることがあります。
特定所得者に該当する場合は、源泉徴収が必要です。
常時雇用関係にあるのが2名以下で、家事使用人にあたる場合や、手数料・料金だけを支払っている場合は源泉徴収の義務はありません。
源泉徴収の義務がない場合でも、必要に応じて支払調書を作成するよう求められる場合があります。
源泉徴収義務者でなければ、支払調書の発行は不要です。
個人事業主が外注費を払う場合の注意点
個人事業主が外注を活用することは業務効率化につながるため、よく行われる手法のひとつです。
ただし、外注費として計上することが適切であるか、確認すべきポイントがあります。
本章では個人事業主が外注費を払う際に注意すべきポイントのうち、作業時間の拘束や作業方法の指定について解説します。
これらの注意点を押さえることで、外注費を正しく計上し、税務調査の際に問題が生じるリスクを低減できるでしょう。
作業時間を拘束しない
個人事業主が外注費を支払う際に注意すべき点のひとつは、外注先に作業時間を厳密に指定しないことです。
作業時間を指定すると、労働者としての雇用関係と見なされ、個人事業主は雇用主としての法的責任を負うことになります。
そのため、個人事業主は作業の納期を明確にできますが、作業時間についてはできるだけ柔軟に対応することが重要です。
また、外注先との契約書には納期と納品形式を明確に記載することで、外注先と円滑なコミュニケーションをとれます。
作業方法を指定しない
個人事業主が外注費を支払うときもうひとつの注意点は、作業方法について指示を与えないことです。
外注先に作業方法を厳密に指示すると、それは業務命令に近い形での指示としてとらわれ、個人事業主が指揮命令権を持つ雇用主として扱われることになります。
個人事業主は、成果物の定義や納品形式を明確に契約書に記載することで、業務の成果を確認することが重要です。
また、作業中に問題が発生した場合は外注先と共に解決策を模索することが求められます。
こういったコミュニケーションをとりながら、業務を円滑に進めることが大切です。
個人事業主が外注費を手渡しする場合
個人事業主が外注費を支払う場合、口座振込や現金書留、クレジットカード決済など、さまざまな支払い方法がありますが、中には手渡しで支払うケースもあります。
しかし、手渡しで支払う場合は税務署の税務調査で問題が生じることがあるため、十分な記録の取り方や領収書の発行が必要です。
この章では、個人事業主が外注費を手渡しする場合の注意点について解説します。
税務調査で困らないよう記録が必要
個人事業主が外注費を手渡しする場合、税務調査に備えて記録を残すことが重要です。
外注費を経費として計上するには、支払った費用が事業活動に関するものであることを証明する必要があります。
振込や小切手などの電子的な取引での支払いの際には、明細書が証拠になります。
領収書を用意しておこう
個人事業主が外注費を手渡しする場合、支払いに際しては必ず領収書をもらいましょう。
領収書を用意すれば外注費を経費として計上できます。
領収書には、支払日や金額だけでなく、受取人の氏名や住所、業務内容の明細を記載しておくべきでしょう。
支払金額によっては、収入印紙が必要な場合があるため、注意しましょう。
参考外注費を手渡しで払う際のトラブル回避方法については、こちらで詳しく解説しています。
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家族へのアルバイト代は経費にできない
同一生計を共にしている親族に対して支払う給与や家賃は、原則的に必要経費には算入できません。
ただし、青色事業専従者の届出を行い、労務の対価として適切な範囲内での給与の支払いであれば例外的に経費に算入できます。
上記の規定の適用を受けるためには、青色申告者である必要があります
国は家族に対する給与支払いを許容していないため、節税目的での支払いはできません。
ただし、同一生計親族が有している建物等で事業をおこなっている場合、同一生計親族に支払った家賃は経費にできませんが、同一生計親族が有している資産の固定資産税や減価償却費は経費に算入できます。
独立して別居している子供のアルバイト代は経費になる
別居している場合、生計を一にしていない親族に対して支払った給与や家賃は必要経費として算入可能です。
兄弟間であっても、生計を一にしていなければ経費に算入できます。
ただし、親や配偶者、子どもなど扶養に入れている人への支払いは必要経費として算入できません。
別居でも仕送りなどをおこなっている場合は、生計を一とされます。
同居していても、生計を別にしている場合には経費に算入できます。
ただし、同居で生計を別にしていると判断されるケースは稀です。
単発の手伝いは雑費にしてもよい?
この章では、単発の手伝いを経理処理する際、雑費として計上することができるかを解説します。
雑費として計上できるケースがある一方で、最低賃金の規定が適用されたり、頻繁に同じ人物に対して雑費として計上したりする場合は、ほかの科目に振り替えるよう勧められるなど、注意点があります。
事業形態や業種によって異なるため、適切な経理処理を行うためには専門家の意見や税務署の指導に従うことが大切です。
雑費として計上できる場合もある
単発の手伝いを雑費として計上できるケースがあります。
雑費とは事業に必要な経費のうち、金額が小さくて一時的なものです。
たとえば、片付けや引っ越しの手伝いなどがこれに該当します。
単発の手伝いは、たいていの場合、給与の支払いや労働基準法の適用などが必要なく、雑費として計上可能です。
雑費にする場合の注意点
雑費として計上する場合も、注意すべきポイントがあります。
たとえば、同じ人に頻繁に雑費を支払っている場合は、その性質に応じてほかの項目に振り替えるのがおすすめです。
また、頻繁な支払いは雑費として計上できる金額を超える場合があります。
さらに、支払い金額が一定の範囲を超える場合は、人件費または外注費として計上すべきです。
具体的な金額の基準は事業の性質や規模によって異なりますが、一般的には数万円程度といわれています。
単発の手伝いを雑費として計上する場合は、手伝ってもらった日付けや内容を明記することが重要です。
また、謝礼として計上することも可能ですが、必要に応じて支払条件や請求書などの証憑書類を入手することが望ましいです。
支払った時に領収書を渡してもらうとよいでしょう。
まとめ
- 外注費と給与の違いを理解する。
- 個人事業主が外注費を払う場合、源泉徴収の必要性を確認する。
- 外注先に作業時間や方法を指定しないことに注意する。
- 外注費を手渡しする場合、必ず領収書をもらうこと。
- 節税目的での家族への給与支払いはできないことを理解する。
個人事業主が外注費や給与を支払う場合や外注費と給与の違い、源泉徴収の必要性、外注先への指示の仕方、領収書の重要性、節税目的での家族への支払いの問題点について解説しました。
個人事業主は自分自身で仕事をこなすだけでなく、外注先を活用することで業務効率の向上やスキルアップが可能になります。
しかし、正しい方法で支払いを行わないと税務署の問題になる恐れもあるため、今回解説した事項を参考に、適切に処理を行うように心がけましょう。
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