「独立の目途が立ったので、会社を退職して開業したい」
そう考えたときに気になるのが、「個人事業主で開業する場合でも、ハローワークに申請すれば再就職手当はもらえるのか」ではないでしょうか。
ずっと雇用保険を払ってきたのだから、できることなら再就職手当もしっかりもらいたいところです。
個人事業主でも再就職手当をもらえる場合がありますが、いくつか条件があります。
タイミングを間違えると「個人事業主として開業したら再就職手当がもらえなかった」などのケースも起こります。
本記事では、個人事業主が再就職手当をもらうためにハローワークで必要な手続きについて解説しています。
再就職手当をもらい、事業が軌道に乗るまでの生活を安定させるためにもぜひ記事を読んでみてください。
個人事業主はハローワークで再就職手当をもらえる?
ハローワークのホームページを見ても、会社から会社への転職が前提となっていて個人事業主が再就職手当をもらえるかどうかわかりにくくなっています。
結論としては、「再就職手当はもらえる可能性があるが、ケースによる」と言えます。
まずは、再就職手当の仕組みと個人事業主が再就職手当をもらえる条件について見ていきましょう。
雇用保険とは
再就職手当の前に、簡単に雇用保険について説明します。
一般的に失業保険と呼ばれているものは正式には「雇用保険」であり、「基本手当(いわゆる失業手当)」や「再就職手当」などの制度から成り立っています。
厚生労働省によると、失業手当(基本手当)を受給するためには原則「離職前2年間に被保険者期間が12ヵ月以上あること」のほかに、以下のような条件があります。
- 積極的に就職しようとする意思がある
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)がある
- 積極的に仕事を探しているにも関わらず、現在職業に就けていない
就職の意志がある、つまり「求職活動をおこなう」のが失業手当給付の条件です。
そのため、退職後すぐ開業を考えている個人事業主は失業手当は受給できません。
「個人事業主として開業届を出さずに、こっそり支給停止にならない程度の収入を得て失業保険の手当をもらってもバレないのでは?」と思うかもしれませんが、やめておきましょう。
ハローワークによると、「偽りその他不正の行為で基本手当などを受けたり受けようとした場合には、基本手当などを受けられなくなるほか、返還を命ぜられる」とあります。
それだけでなく「返還を命じた不正受給金額とは別に、直接不正の行為により支給を受けた額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命ぜられる」とあります。
「不正受給の典型例」の一つとして、「自営や請負により事業を始めているにも関わらず、「失業認定申告書」にその事実を記さず、偽りの申告を行った場合」と挙げられています。
もし失業保険の不正受給がバレると大きな損失になってしまうため、正しく給付を受けるようにしましょう。
再就職手当とは
「失業手当が受けられないなら、雇用保険料の払い損?!」と思うかと思いますが、そうではありません。
雇用保険には「基本手当」のほかに「再就職手当」があります。
「失業手当がもらえなくなるともったいないから、受給期間ぎりぎりまで就職しなくていいや」と皆が考えてしまうと就職が促進されず、国としては困ってしまいます。
受給期間の引き伸ばしを防ぎ、再就職を促進させるための制度が「再就職手当」です。
ハローワークによると、再就職手当は「基本手当の受給資格がある方が安定した職業に就き」かつ、「基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合」に支給されるとしています。
支給率は、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の2以上か3分の1以上かで変わってくるため、人によって受給金額は変わります。
再就職手当の受給条件
厚生労働省によると、再就職手当の受給条件は以下のとおりです。
- 受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、または事業を開始した
- 基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上ある
- 離職した前の事業所、あるいは関わりの強い事業所に再び就職したものでない
- 離職理由により給付制限がある場合は、求職申し込みをしてから待期期間満了後1ヵ月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること
- 1年を超える勤務が確実であること
- 原則、雇用保険の被保険者になっている
- 過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けたことがない
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主への雇用ではない
- 再就職手当の支給決定の日までに離職していない
「受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、『または事業を開始』したこと」とあるため、個人事業主でも条件によっては再就職手当がもらえます。
個人事業主が再就職手当をもらえるケース
個人事業主として再就職手当をもらう場合、再就職手当の受給条件で気をつけたいのが、「受給手続き後、『7日間の待期期間満了後』に事業を開始したこと」です。
7日の待機期間の間に開業届を出してしまうと、「失業の状態ではない」とみなされてしまいます。
そのため、開業届は待機期間が過ぎてから出すようにしましょう。
さらに注意しなければならない条件が、「受給資格に係る離職理由により給付制限(基本手当が支給されない期間)がある方 は、求職申し込みをしてから、待期期間満了後1ヵ月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること」です。
つまり、会社都合(倒産・解雇・雇止めなど)の退職から開業する場合は7日間、自ら会社を退職して個人事業主として開業する場合には、「7日間+1ヵ月間」経ってから開業届を出す必要があります。
(引用:厚生労働省 再就職手当のご案内)
個人事業主がハローワークで再就職手当を受け取る手順
個人事業主が再就職手当をもらう条件がわかったところで、実際に再就職手当を受け取るまでの手順について解説します。
1.ハローワークで離職票を提出する
個人事業主が再就職手当を受け取るための手続きは、開業にまつわる以外は基本的に通常と同様です。
そのため、住所地を管轄するハローワークで「求職申し込み」をしたのちに発行された離職票を提出し、受給資格を得ます。
基本的に、離職票は退職した会社からもらえます。
ですが、もしもらえない場合には退職した会社に問い合わせたうえで必要に応じてハローワークに相談しましょう。
2.雇用保険説明会で参加後、失業認定を受ける
次に、雇用保険説明会に参加します。参加すると、雇用保険制度の説明を受けると同時に「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を受け取ります。
なお、雇用保険受給資格者証には再就職手当の計算のもととなる「基本手当日額」が記載されているので忘れずに確認しましょう。
(引用:厚生労働省 再就職手当のご案内)
また、雇用保険説明会に参加後には1回目の「失業認定日」が知らされます。
1回目の失業認定日にハローワークに行き、手続きをすると失業認定が受けられます。
3.各種提出書類を用意する
会社都合の退職後から開業する場合は失業認定を受けたらいつでも、自己都合の退職の場合には受給資格を得てから「7日間+1ヵ月間」経過すれば、再就職手当の申請ができます。
個人事業主が再就職手当の申請をする際に必要な書類は、以下のとおりです。
- 開業届
- 再就職手当支給申請書
- 失業認定申告書
- マイナンバーカードなどの身分証明書
- 印鑑
- 1年を超えて事業を安定的に継続しておこなうことを示す証明書類
失業認定申告書は、「5.就職もしくは自営した人」の欄に記入します。
(引用:ハローワーク 失業認定申告書)
また、再就職手当の受給条件のなかに「1年を超えて勤務することが確実であると認められること」とあります。
この条件をクリアするには自営の場合でも、開始から1年を超えて事業を安定的に継続しておこなうことができると認められることが必要です。
そのためハローワークでも、自営業開始の場合には「業務委託契約書や営業許可書など、『継続して仕事が見込めるような書類』が再就職として認められるためには必要」としています。
4.再就職手当の申請をする
個人事業主に関わる書類も含め、必要な書類が揃ったらハローワークで再就職手当の申請をおこないます。
個人事業主として開業し、再就職手当を受け取る資格を得るためには「1年を超えて事業を安定的に継続しておこなう」という認定が必要です。
そのため、開業すぐの場合には申請が通らない可能性もあります。
審査に通らなかった場合は、少し時間を空けて実績を示す書類が揃ったら再申請をするとよいでしょう。
5.再就職手当が振り込まれる
再就職手当の審査に通ったら、支給決定通知書が届きます。その後、指定口座に再就職手当が振り込まれます。
個人事業主がハローワークでもらえる再就職手当の金額
個人事業主として開業するにあたり、「もし再就職手当が受給できたら、いくらくらいもらえるのか?」と気になるでしょう。
ここでは再就職手当の計算方法を中心に見ていきましょう。
再就職手当の計算方法
再就職手当の額の計算式は、以下のとおりです。
計算式:「基本手当日額×所定給付日数の支給残日数×支給率」
基本手当日額は退職前6ヵ月間の給与総額をもとに算出されますが、計算式が複雑なため説明は割愛します。
基本手当日額は「雇用保険受給資格者証」に記載されています。
手続き前に金額を知りたい方は厚生労働省のWebサイトをご覧ください。
支給率は支給残日数によって変わり、「3分の2以上残っていれば70%、3分の1以上残っていれば60%」です。
支給残日数の目安は以下の「厚生労働省 再就職手当のご案内」の表でわかります。
残日数が3分の2以上になるように再就職手当の支給手続きをおこなえば、70%の支給率でもらえます。
(引用:厚生労働省 再就職手当のご案内)
再就職手当の平均受給額
失業手当の支給日数は、以下の表のとおりです。
<会社都合(倒産・解雇・雇止め)により退職した場合の所定給付日数>
<自らの都合により退職した場合の所定給付日数>
(引用:ハローワーク 基本手当の所定給付日数)
自己都合より会社都合による退職のほうが支給日数が多く、また会社都合での退職の場合は家族を養う働き盛りの年代のほうが生活を保障するために支給日数が多くなっています。
給付日数が離職の理由と年齢や勤続年数によって変わるため、再就職手当の金額も人それぞれです。
一例として、下記ケースにあたる個人事業主の再就職手当の金額を計算してみましょう。
- 賃金日額:15,000円
- 退職理由:自己都合
- 勤続年数:15年
- 開業のタイミング:退職してから2ヵ月後
計算式および再就職手当の金額は、下記のとおりです。
基本手当7,500円×45日×60%=202,500円
まとめ
- 再就職手当とは、基本手当(失業手当)の支給残日数が3分の1以上だともらえる、早期の再就職を促進するための手当
- 個人事業主は再就職手当をもらえるが条件がある
- 個人事業主として再就職手当をもらうためには、会社都合退職の場合は受給手続きから7日間、自己都合退職の場合は「7日間+1ヵ月間」経ってから開業届を出す必要がある
- 個人事業主として再就職手当の申請をするためには開業届と業務委託契約書などの書類が必要
- 再就職手当の額は「基本手当日額×所定給付日数の支給残日数×支給率」で算出される
個人事業主が再就職手当をもらうためには、開業届提出とハローワークでの手続きのタイミングに注意が必要です。
条件をおさえて、事業が軌道に乗るまでの生活費のためにもしっかり再就職手当をもらっておきたいですね。
なお、「事業が軌道に乗るまでの生活費」以外にも個人事業主の心配点として挙げられるのが「退職金がないこと」ではないでしょうか。
中小企業退職金共済(中退共)に入ると、加入の助成金も出て経費にもなりお得ですので検討してみてはいかがでしょうか。