多くの個人事業主は、自分自身で事業を運営するにあたって、社会保険や年金制度について理解しておくことが必要です。
しかし、個人事業主自身が厚生年金に加入することはできません。
そこで、個人事業主が厚生年金の代わりに加入する「国民年金」について、手続き方法や活用したい制度について解説していきます。
老後の不安を解消するために、個人事業主にとって役立つ情報をまとめましたので、ぜひ最後までお読みください。
個人事業主は厚生年金に加入できない
個人事業主は、会社員や公務員などのように厚生年金に加入することができません。
厚生年金は従業員が加入するための保険であり、従業員ではない自営業者には適用されないからです。
個人事業主が社員を雇用する場合は、従業員に対して厚生年金に加入することが義務付けられていますが、個人事業主自身は加入することはできません。
そのため、個人事業主は自分で、老後の資産形成のための年金制度を選択する必要があります。
個人事業主は厚生年金の代わりに「国民年金」に加入する
個人事業主は、厚生年金に加入することはできず、国民年金に加入する必要があります。
国民年金は、20歳以上の全国民が対象の公的年金制度であり、老齢、障害、遺族などの保険に分かれています。
個人事業主は、自己負担で年金保険料を支払い、国民年金に加入します。
国民年金には最低保障年金がありますが、基本的には加入期間や保険料に応じて老齢・障害年金を受給することになります。
国民年金は個人事業主にとって唯一の公的年金制度であり、老後の生活資金の一つとして重要です。
加入には手続きが必要なため、仕事を辞めて従業員ではなくなった際などに、すぐに自治体の窓口で厚生年金からの切り替えをしましょう。
個人事業主が国民年金に加入する際の手続き
国民年金に加入する手続きは、以下のステップになります。
手続き窓口への訪問
住所地の市区役所または町村役場の窓口で、国民年金に加入したい旨を申し出ます。
必要書類の提出
基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類を提出します。
必要な書類には、住民票や戸籍謄本などが含まれます。
加入手続きの完了
手続きが完了すると、国民年金保険証が発行されます。
そして、手続き完了後、年金保険料の納付が必要になります。
任意加入や免除制度に該当する場合は、さらに提出する書類が必要になるなど、手続きが異なる場合があります。
詳細は窓口で確認してください。
電子申請
近年では、自治体によって、インターネット上での申請が可能な場合もあります。
以上のように、国民年金に加入する際には、複数の手続きが必要です。
複雑な部分もあり、自治体によって異なる点もあるため、わからない点は窓口で説明を受けることをおすすめします。
個人事業主が国民年金と合わせて活用したい制度
個人事業主にとって、年金制度の活用は将来の安心のために欠かせないものです。
国民年金だけでなく、付加年金や国民年金基金、小規模企業共済、iDeCoなど、様々な年金制度が存在します。
ここでは、個人事業主が国民年金と合わせて活用したい制度として、付加年金、国民年金基金、小規模企業共済、iDeCoについて解説します。
付加年金
ここでは付加年金の制度内容や注意点について解説していきます。
付加年金は老齢基礎年金と一緒に受け取ることができる終身年金
付加年金は、老齢基礎年金に加えて、月額400円の付加保険料を支払うことで、老齢基礎年金に上乗せができる年金制度です。
付加年金の年金額は、納付月数×200円で決定されます。
申し込みは市区町村役場で行われ、納付期限は翌月末日です。
付加年金は国民年金保険料と同じように、付加保険料の納付期限を過ぎても、期限から2年間はさかのぼって納めることができます。
ただし、国民年金保険料を納めていない月については、付加年金保険料だけを納めることはできません。
付加年金は定額であり、物価によるスライドはありません。
将来的には、毎年200円×納付月数の付加年金が受け取れるので、老後の備えに加算をしたい場合に有効です。
国民年金基金と併用できない
付加保険料の納付は可能ですが、国民年金基金の加入者は除外されます。
納付開始は申し込んだ月からで、納付期限は翌月末日です。
対象者は「国民年金第1号被保険者」と「任意加入被保険者」、つまり自営業者やフリーランス、60歳以上65歳未満で国民年金に任意で加入している人です。
参考:日本年金機構
国民年金基金
ここでは国民年金基金について制度の内容や利用方法について見ていきます。
国民年金基金は国民年金に上乗せできる年金制度
国民年金基金は、老齢基礎年金に上乗せされる第一号被保険者のための公的な年金制度です。
国民年金制度とは別に、自己負担で将来の年金額を増やすことができます。
掛金の上限は月額68,000円で、任意に掛け金を拠出することができます。
また、保証期間のあるA型とI〜Ⅴ型は、年金受給前〜保証期間中に本人が死亡した場合、遺族に対して一定額が支給されます。
国民年金基金は、自営業者やフリーランスなど、国民年金に加入する第一号被保険者の方々が安心して老後を過ごすための制度です。
国民年金基金の利用方法
- ホームページから資料請求
- 加入申出書を記入して郵送
- 加入申出書受付後、加入登録
- 加入員証を郵送
- 2ヵ月後からの引き落とし開始
国民年金基金の掛金は、給付の型、加入口数、年齢、性別により異なります。
月額の上限は6万8,000円で、掛金合計(確定拠出年金含む)は6万8,000円以内です。
ただし前述のとおり、付加年金とは重複加入ができません。
小規模企業共済
ここからは小企業共済について制度や利用方法を詳しく見ていきます。
小規模企業共済制度とは中小機構が運営する退職金制度
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業経営者が加入する退職金制度であり、国の機関である中小機構が運営しています。
なお、加入するには、常時使用する従業員が20人以下であることが必要です。
小規模企業共済に加入すると、毎月一定額を積み立て、退職金を形成していくことができます。
また、その掛金は全額所得控除が受けられるため、毎年の確定申告でも節税に有利です。
事業資金の借入もできます。
一方で、解約する場合には解約費用が発生することがあります。
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業経営者のための、将来の生活資金を確保するための制度です。
国民年金と合わせて活用することで、より安心な老後を迎えることができます。
小規模企業共済の利用方法
- 必要書類を入手
- 書類への記入
- 中小機構が指定した窓口(金融機関や団体)で提出。郵送は不可。掛金の支払い方法に応じて、必要な金額や書類を準備
- 約40日後に中小機構から「小規模企業共済手帳」などの書類が送付される。資格なしの場合は通知あり
必要書類
- 個人事業主: 「確定申告書」又は「開業届」の控え(税務署の受付印またはe-tax受信通知が必要)
- 法人役員: 役員の登録証明書
- 共同経営者: 個人事業主との契約書、出資の証明書、報酬の証明書など
中小機構の様式書類には「契約申込書」や「預金口座振替申出書」が含まれます。
公的書類の取得費用は、申込者の負担となります。
参考:中小機構・小規模企業共済
iDeCo
iDeCoの制度内容や利用方法について見ていきます。
iDeCoとは個人型確定拠出年金制度の1つ
iDeCoは、個人型確定拠出年金制度の1つで、老後のために積み立てをすることができる制度です。
会社員・個人事業主を問わず、年金受給開始年齢までの期間に個人で加入できます。
iDeCoに加入することで、掛金が所得控除の対象となったり、運用益が非課税となったり、受け取り時にも非課税枠や控除を活用できるという、いくつもの税金優遇措置が受けられます。
公的年金や企業年金だけでは不安な場合に、自己の老後資金を増やす手段としても有効です。
投資信託や国債などの運用商品を選び、自分のライフプランに合わせた金額で運用が可能です。
ただし、運用にはリスクが伴いますので、投資に慣れていない方は専門家のアドバイスを受けることが重要です。
iDeCoの利用方法
カンタン加入診断
- iDeCoの加入資格を確認
- 加入資格区分に応じて掛金の限度額が異なるので、自分の掛金の上限を知る
- 質問に答えるだけで診断可能
- 但し、特定の条件下の人々(例:公的年金受給者、iDeCoの老齢給付受給者等)は加入できない場合がある
掛金を決める
- 掛金は月5,000円以上、1,000円単位で設定可能。但し、60歳まで基本的に引き出し不可
- 1年に1回掛金額の変更が可能。また、掛金の拠出を停止することも可能
- iDeCo+制度のある企業の従業員は、自己掛金と企業の上乗せ掛金の合計で掛金が決まる(上限月額23,000円)
資産運用の基礎を知る
- 運用商品を選ぶ
- 金融機関を選ぶ
以上のステップを経て、iDeCoの加入手続きが行われます。
参照:iDeCo公式サイト
個人事業主の年金加入の納付が免除される条件
こちらに「個人事業主の年金加入が免除される条件」について紹介されています。
国民年金第1号の被保険者には保険料の支払い義務がありますが、経済的な困難さから支払いが難しい場合、保険料免除・納付猶予制度の手続きが利用できます。
給付金の受け取りについて
免除された期間でも老齢年金の2分の1を受け取ることができます。
免除・納付猶予期間中に障害や死亡があった場合、障害年金や遺族年金の受給が可能です。
しかし、未納の場合は年金額に反映されませんが、免除や納付猶予の場合は反映されます。
個人事業主がもらえる障害年金とは?
障害年金を受給しながらも自営業や起業は可能です。
起業によって障害年金の支給が停止されることはありません。
障害基礎年金は、20歳前または国民年金の被保険者期間中または被保険者でなくなった後でも、60歳以上65歳未満で日本国内に住んでいる間に、障害の原因となった病気やけがの初診日がある方が対象になります。
公的年金制度における障害等級は、障がいの程度によって1~3級に分けられており、1級が最も重度の障がいとされています。
この等級には身体的障害だけでなく、精神障害や内部障害(例: がん、糖尿病)も含まれています。
参照:日本年金機構・障害年金
まとめ
- 個人事業主は厚生年金に加入できないため、国民年金や別の年金制度を活用する必要がある。
- 個人事業主は、公的年金制度である国民年金に加入することで、老後の生活資金を確保できる。
- 個人事業主は、付加年金や国民年金基金、小規模企業共済、iDeCoなどを、国民年金と合わせて活用できる。
- 国民年金に加入する手続きは、住所地の市区町村役場で行う。
- 個人事業主は、自己の老後のために、適切な年金制度を選択し、積極的に貯蓄することが重要。
この記事では、個人事業主が厚生年金に加入できないことや、代わりに加入できる国民年金について解説しました。
さらに個人事業主が老後の資金不足を解消するために利用できる年金制度も、紹介しました。
個人事業主は自身の老後のために、適切な年金制度を選択し、積極的に貯蓄していくことが大切です。
この記事を参考にして、老後の不安を解消しましょう。