会社勤めをしながら副業を始めている人は、近年増加傾向です。
副業を始める際に気になるのは「開業届」ではないでしょうか。
「副業をスタートしたら、すぐ開業届は出さないといけないのか」
「収入なしの場合はどうするのか」
「出さないと罰せられるのか」
副業に関わる上記の疑問の声がよく聞かれます。
本記事では、副業で開業届を提出する必要性や、提出するメリットやデメリット、提出しない場合のペナルティの有無を解説します。
開業届の記載方法や提出方法も紹介しているので、これから副業を始める方や副業をスタートしたばかりの方はぜひ参考にしてください。
開業届とは
開業届は、個人が事業の開始を税務署に報告するための書類です。
正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。
開業届は提出しなくても事業を開始できますが、提出することで正式に個人事業主として承認され、事業を運営することができます。
副業を始めたら開業届は提出すべき?
事業を始めたら開業届を提出しなければいけませんが、提出しなくてもペナルティはありません。
ただし、開業届を提出することで税制面などでさまざまなメリットを受けられます。
「開業届を出すのが面倒」「よくわからないから開業届を出していない」と不安に思う場合は、ぜひ提出するメリットを理解して検討してみましょう。
副業で開業届を提出する6つのメリット
開業届を提出するメリットには、以下の6つがあります。
それぞれ詳しく解説します。
青色申告特別控除が受けられる
開業届の提出をすると「所得税の青色申告承認申請書」も提出できるようになります。
青色申告承認申請をすると確定申告での青色申告が可能で、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けることができます。
確定申告の白色申告は簡易的な記帳方法ですが、税制上の優遇措置を受けることはできません。
一方、青色申告の記帳方法は白色申告と比べ記帳が複雑ですが、最大65万円の税制優遇は大きな利点です。
青色申告の申請は、開業日から2ヵ月以内に税務署への届出が必要です。
届出をしなかった場合は、その年の確定申告は自動的に白色申告になってしまうので注意してください。
屋号付きの銀行口座を開設できる
開業届に屋号を記載して提出することで、屋号付きの銀行口座の開設が可能です。
個人名義の口座の使用は可能ですが、屋号付き口座を利用するほうが事業が存在している証明にもなるため、取引先に安心感を与えることができます。
ネットショップなど顔の見えない場合に、取引がしやすくなります。
屋号付きの銀行口座の開設は、プライベート用の口座と区別ができるため事業資金の把握もしやすいです。
損益通算ができる
副業所得が事業所得として認められた場合、勤めている会社の給与所得と、利益と損失を合算する「損益通算」が可能になります。
副業で赤字が出ても、給与所得のプラスと合算できるため、給与所得の課税対象になる部分が減って納税額が少なくなります。
開業届を出さなかった場合は、副業での所得が雑所得となるため、損益通算はできません。
損失の繰越しができる
青色申告にすると、3年間の赤字を繰り越すことが可能です。
毎年黒字経営の場合問題ありませんが、赤字になる年は損失の繰り越しをすることで、支払う税金を減らせます。
1年目、2年目にそれぞれ50万円の赤字、3年目に100万円の黒字が出た場合、1~2年目は所得税がかからず、3年目は赤字を繰り越せるため、相殺されて支払いが不要になります。
しかし、損失の繰り越しを適用するには毎年確定申告をしなければいけないため、赤字の場合も確定申告は忘れずにおこないましょう。
経費計上できる範囲が広がる
開業届と青色申告承認申請書を出すと、経費計上できる範囲が広がります。
具体的には下記の3点が挙げられます。
1.青色事業専従者給与として、生計を同一にする家族への給与を経費にできる
家族への給料は経費扱いにできませんが、規定を満たすことで経費にできます。
常識の範囲内ですが、上限額はありません。
2.30万円未満の減価償却資産は一括で経費計上できる
通常は10万円以上の備品に関しては耐用年数に応じて、経費にします。
しかし、青色申告の場合、パソコンやオフィス家具など30万円未満の事業に用いる備品は一度で減価償却が可能です。
3.自宅兼事務所の場合、家賃や光熱費などの一部を経費計上できる
個人と仕事両方で利用しているものは「家事按分」を利用して費用の一部を経費にできます。
家事按分とは、個人用と業務用の両方で使用しているものの支出のうち、業務用の使用比率分を経費として計上することです。
10万円の家賃の部屋に住んでいる場合、部屋の2割分のスペースを事務所や作業場として使用していると、家賃のうち2万円を経費にできます。
光熱費や通信費なども、家事按分で経費計上が可能です。
小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済に加入できることも、開業届を提出するメリットの一1つです。
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が利用できる積み立て型の退職金制度です。
個人事業主に退職金は存在しませんが、小規模企業共済に加入すれば、退職後の生活に備えることができます。
小規模企業共済の掛金は全額所得控除されるため、税負担を軽減できます。
小規模企業共済に加入するためには、確定申告書の控えが必要です。
開業したばかりで確定申告をする場合は、確定申告書控えのかわりに開業届の控えを提出しなければいけません。
副業で開業届を提出する3つのデメリット
開業届を提出するデメリットには、以下の3つがあります。
開業届を出すとさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在するためしっかり確認しておきましょう。
失業手当を受給できない
会社を退職すると、一定の条件を満たせば雇用保険の失業手当を受給できますが、開業届を出している場合、失業手当を受給できない可能性があります。
なぜなら「開業=職がある」と判断され、失業者とみなされなくなってしまうからです。
退職を予定していて失業手当の受給を考えている場合は、開業届のタイミングを考えましょう。
提出してしまった場合でも、確定申告をおこなっていなければ開業届の取り下げが可能です。
その際は、開業届を提出した税務署へ相談してみましょう。
健康保険の被扶養者から外れる
配偶者の健康保険に加入している場合で、「収入ー必要経費」で計算される年間収入が130万円を超えてしまうと、健康保険の被扶養者から外れてしまい、自分自身で国民健康保険に加入しなければなりません。
被扶養者として健康保険に加入していた場合は、保険料を納める必要はありませんが、国民健康保険に加入する場合は前年の収入によっていくら支払うかが決まります。
家族が勤務している会社によっては、個人事業主となることで収入なしでも被扶養者から外れてしまう場合があるため、事前に確認しておく必要があります。
青色申告の手間が増える
青色申告はさまざまな税制上のメリットがありますが、帳簿付けが複雑です。
日々の取引記録を複式簿記で記帳していくだけでなく、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿の作成や管理も必要です。
記帳した記録を1年分集計して決算書(賃借対照表・損益計算書)を作らなくてはなりません。
簿記の知識がない場合は自分でおこなうことは難しいため、無理なく帳簿付けができる会計ソフトの利用がおすすめです。
どのような選択が自分に向いているかアドバイスが欲しい場合は、コストはかかりますが税理士を利用するのも一つの方法です。
副業の開業届を提出する方法【記入例あり】
開業届を出すメリットやデメリット両方を理解したうえで実際に提出しようと思った方は、作成してみましょう。
以下で開業届を提出する方法を紹介します。
開業届のもらい方
開業届の様式は1種類のため、本業でも副業でも提出する書類に違いはありません。
直接開業届を手に入れたい場合は、最寄りの税務署にあります。
全国の税務署の窓口で受け取りが可能です。
国税庁のホームページからダウンロードもできます。
クラウド会計ソフトを運営している会社の「開業届の作成サービス」を利用する方法もあります。
案内に沿って入力を進めていくだけで、知識がなくても開業届の作成が可能です。
開業届の書き方
下記が個人事業の開業・廃業等届出書です。記入方法を確認しましょう。
はじめに、届出書のタイトル個人事業の開業・廃業等届出書の「開業」の部分に丸をつけましょう。
続いて、項目ごとに記入します。
項目 | 記載内容 |
1.税務署長名と提出日 | 開業する住所(納税地)を管轄する税務署名と提出日を記入 |
納税地 | 納税地は住所地(自宅)・居所地(海外居住で日本での活動拠点)・事業所等(事業所住所)から選び、その住所を記入 |
上記以外の住所地・事業所等 | 納税地以外にも記載すべき住所があれば記入 特にになければ、記入不要 |
氏名・生年月日・個人番号 | 氏名・生年月日・個人番号(マイナンバー)を記入 |
職業 | 開業する職業名を記入 |
屋号 | 事務所名や店舗名など、事業で使用する名称を記入 屋号なしやまだ決めていない場合は、記入不要 |
届出の区分 | これから新規で提出する場合は「開業」にチェック |
所得の種類 | 副業の場合は「事業所得」にチェック 不動産の貸付業者になる場合は「不動産所得」にチェック |
開業・廃業等日 | 開業した日を記入。自分が決めた開業日で記入が可能 |
事業所等を新増設、移転、廃止した場合 | これから開業する人は記入不要 |
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 | 青色申告をする場合や、課税業者になる場合は「有」にチェック。ただし、開業時には消費税が免税になるため消費税に関する欄は「無」にチェック |
事業の概要 | どのような事業をするかの説明を記入 記載例のように簡潔で問題なし |
給与等の支払の状況 | 従業員を雇用する場合に記入。家族を雇用する場合は「専従者」、家族以外は「使用人」欄に人数を記入 税額の有無は、源泉徴収する場合、「有」にチェック 個人事業主一人の場合は、すべて記入不要 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無 | 源泉所得税を毎月納付から、年2回にまとめて納付する特例を利用する場合は「有」にチェック 従業員を雇用していなければ、記入不要 |
給与支払を開始する年月日 | 従業員へ給与支払いを開始する日を記入 従業員を雇用していなければ、記入不要 |
その他参考事項 | これから開業する人は、記入不要 |
関与税理士 | 税理士を利用しなければ、記入不要 |
税務署整理欄 | 記入不要 |
開業届の提出場所・提出期間
開業届は、事業を開始した日から1ヵ月以内に提出します。
提出期限が土日祝日にあたる場合、それぞれの日の翌日が提出期限です。
書類は以下の3つの方法で提出しましょう。
税務地を管轄する税務署へ直接持参する方法
直接税務署へ持っていく場合は、税務署の開庁時間に注意しましょう。
平日8:30〜17:00が開庁時間です。
時間外になると、税務署の時間外収受箱への投函となります。
税務地を管轄する税務署へ郵送する方法
開業届は、管轄する税務署へ郵送での提出が可能です。
e-Taxでオンライン提出する方法
e-Taxとは納税や申請などをオンラインで手続きできるシステムです。
わざわざ税務署に行く必要がないうえ、郵便物が届かないトラブルも起こりません。
送信結果がデータで見ることもできるため安心です。
利用するためには、利用者識別番号と呼ばれる16桁のID番号の取得、電子証明書の取得、e-Taxソフトのインストールが必要になります。
マイナンバーカードとICカードリーダライタも準備しておきましょう。
提出する際は開業届書に加えて、以下の書類が必要となります。
- 開業届書の控え
- マイナンバー確認書類
- 本人確認書類(免許所やパスポートなど。マイナンバーカードがあれば不要)
- 印鑑(訂正がある場合に備えて)
- 必要に応じて提出する書類(青色申告をする場合には「所得税の青色申告承認申請書」など)
時間外収受箱や郵送の場合は、マイナンバー確認書類と本人確認書類はコピーでかまいません。
開業届書の控えが返送されてくるため、郵便切手を貼った返信用封筒を同封する必要があります。
e-Taxを使用する場合は、マイナンバーカードやICカードリーダライタの準備、事前のセットアップが必要ですが、データを送信すれば手続きは完了です。
オンライン提出だと開業届書の控えがないため、送信データを印刷して送信後に届く受信通知を一緒に保管しておきましょう。
まとめ
- 開業届を提出すると、個人事業主として社会的に認められる
- 開業届を提出しない場合でも、ペナルティはない
- 開業届を出すことで、税制上のさまざまな優遇やメリットを享受できることがある
- 失業保険が受給できない、健康保険の被扶養者から外れる場合があるため、開業届を出さないほうがいいケースも
- 開業届の提出は人によって必要書類が変わるため、自分に合った方法でおこなう
開業届を出すことで、事業主と社会的に認められるうえ、いくつもの優遇を受けることができます。
個人事業主となることで気持ちの切り替えにもなります。
開業届は「開業後1ヵ月以内に出すこと」となっているため、提出する方が好ましいです。
しかし、開業届を提出することでのデメリットも小さくありません。
提出しない場合も、特にペナルティがあるわけではないので、メリットとデメリット両方を把握して、開業届を提出すべきかそうでないかを検討してみましょう。