開業費になるのはいつまでの出費?認められる範囲を解説

コラム

個人事業主の開業には、開業準備としてセミナーに参加する費用、パソコンを購入する費用など、準備のためのさまざまな支出がともないます。

このような「開業費」について多くの人が気になる点は、「いつからいつまでの出費が開業費になるのか」「どの費用が開業費として認められるのか」ではないでしょうか。

本記事では、開業費に該当する範囲についてくわしく解説します。

開業時は、なにかとお金がかかるものです。

正しい会計処理や税に関する知識を持って、開業前の支出を節税につなげられるようにしておきましょう。

開業費とは


開業費とは、事業を始めるまでにかかった費用のことです。

個人事業主の場合、開業届の「事業を始めた日」以前に支出した事業のための準備支出が開業費です。

開業日以降に支出したものは、開業費としては認められません。

開業費の具体例

開業費には以下のようなものがあります。

  • 開業前に準備したホームページなどWebサイト構築費用
  • 開業するために必要な借入金の支払利息
  • 開業前の店舗の家賃、水道光熱費など

開業費は事業開始年度を含め、それ以降の年度にも影響するという考え方から、経費ではなく資産の科目「繰延資産」で計上し、開業日以降の将来に繰り延べて経費にします。

開業費の仕訳方法について

たとえば、開業前に事務用品を10,000円で購入した場合の仕訳は、開業日の日付で、以下のように作成します。

借方 貸方 摘要
開業費 10,000円 元入金 10,000円 事務用品

開業前は事業が始まっておらず、事業用の資金残高が存在しないため、「元入金」という勘定科目を使って仕訳をします。

また、決算時に上記の事務用品購入分を全額経費計上した場合の仕訳は、期末の日付で、以下のように作成します。

借方 貸方 摘要
繰延資産償却 10,000円 開業費 10,000円 開業費償却額

なお、開業日以前に購入した10万円以上の器具備品などは、開業費ではなく固定資産として計上する必要があります。

固定資産には耐用年数が定められており、該当する耐用年数に応じて減価償却し、費用化する必要があるのです。

たとえば、開業前に20万円のパソコンを購入した場合の仕訳は、開業日の日付で以下のように作成します。

借方 貸方 摘要
器具備品 200,000円 元入金 200,000円 事業用パソコン

このように、開業前にかかった費用には、開業費になるものとならないものがあり、勘定科目や仕訳方法、償却方法なども異なるため注意が必要です。

開業費の償却方法について

開業費は、いつどのように償却すればよいのでしょうか。

個人事業主の開業費は「60ヵ月(5年間)の均等償却または任意償却のどちらか」とされています。

税務署に届け出る必要はなく、選んだ償却方法で償却します。

任意償却とは、その年に償却する金額を「0円から開業費の全額までの範囲で自由に決めて償却できる」方法です。

開業初年度が赤字になった場合、初年度で開業費の償却をおこなわず、翌年以降事業が黒字化したときに開業費を償却すれば、その年の課税所得を抑えて節税できます。

償却する金額は、利益が大きければ開業費の全額まで可能ですが、翌年以降を見越して一部の金額だけの償却も可能です。

利益が出た年度に、利益額に合わせて償却するとよいでしょう。

開業費として認められるのはいつまでの出費?


開業前の準備にかかった費用は開業費として繰延資産に計上しますが、いつまでに支払ったものが認められるのでしょうか。

個人事業主の開業費の支出期間について、決まりはありません。

しかし、開業の何年も前に支出したものを開業費として計上すると、開業との関連性が薄いのではないかと、税務調査で問題となる場合があります。

理論上は数年前にかかった費用も開業費にするのは可能ですが、おおむね開業前の数ヵ月から半年程度、長くても1年以内の準備費用を開業費とするのが妥当です。

開業費を支払った際の領収書や請求書などの証憑は保管しておき、購入目的や使途などを記録・客観的に証明できるように整えて、税務署にも開業費用だと説明できるように備えておきましょう。

開業費として認められるためのポイントは、以下のとおりです。

  • 開業費の支出期間に決まりはないが、何年も前のものは問題になる場合がある
  • 目安として開業前半年程度内のものが望ましい
  • 合理的に説明、証明できるように購入時の証憑は保管し、書類に内容を記載しておく

開業費として認められる範囲


開業費として認められる範囲とは、どのようなものでしょうか。

以下の2つについて解説します。

開業費になるもの

開業費と認められるものは、個人事業主が開業届を提出した日までに支払った費用です。

明確に日付が確認できるので、開業日以降に支払っているものは開業費にできません。

以下に、開業費の具体的な例を紹介します。

  • 開業のために必要な資格取得費用
  • 開業のためのセミナー参加費
  • 開業前に準備したホームページなどWebサイト構築費用
  • 開業するために必要な借入金の支払利息
  • 開業前の打ち合わせ費用
  • 開業に関する市場調査のガソリン代や公共交通機関の旅費
  • 情報収集のためのインターネット利用料
  • 開業宣伝準備のための広告費
  • 事務用品など消耗品費

半年以上前の支出を開業費に入れたい場合は、明確な根拠を示す証拠資料を残しておきましょう。

開業費として認められやすくなります。

開業前にかかった費用を開業費として計上したい場合は、開業届を出すタイミングをきちんと見計らったうえで、計画的に必要な機器類や備品を揃えましょう。

開業費にならないもの

開業のために支払った費用は開業費とみなされることがほとんどですが、なかには開業費と認められないものもあります。

以下は開業費として認められない費用です。

  • 取得価額が10万円以上する備品や機械
  • 通常の仕入・販売目的の商品購入費
  • 車や備品などの固定資産
  • テナント入居時の敷金
  • 従業員の給料
  • フランチャイズ加盟金
  • 開業後に購入したもの

開業までに取得しても、取得価額10万円以上の備品は「固定資産」です。

固定資産は、品物によって経費計上できる耐用年数が決まっており、定められた計算方法で減価償却をおこなうため、開業費には計上できません。

販売用の商品や材料の購入費は、仕入れ費用にあたります。

開業前に購入しても、開業後に販売して利益を得ていれば仕入だったとみなされるため、開業費には計上できません。

事務所を借りる際に支払う「敷金」は、退去時に戻ってくるもので、経費ではありません。

「礼金」は戻ってこないお金なので、経費と同じ扱いです。開業前に支払っていれば開業費とすることができます。

フランチャイズに加盟する場合に支払う加盟金は、基本的には開業費と同じ繰延資産として扱うのが妥当な費用です。

しかし、開業費としての任意償却はせずに、契約期間もしくは5年間で均等に償却しておくのが無難です。

フランチャイズ加盟金は、加盟してから毎年継続的に受けるサポートの代金と考えられ、法人では均等償却を採用するものだからです。

加盟金には「前払費用」などの、普段使用する繰延資産の勘定科目を使用して、他の開業費とは区別して均等に償却しておくとよいでしょう。

いずれにしても、領収書や明細書がないと、いつ購入や支払いがおこなわれたのかも、内容の証明もできません。

領収書や明細書などはきちんと管理しておきましょう。

まとめ


開業費になるのはいつまでの出費なのか、認められる範囲について解説しました。

以下まとめです。

  • 開業費とは事業を始めるまでにかかった費用のこと
  • 開業費は「繰延資産」に計上し、「均等償却」か「任意償却」で償却する
  • 開業費として認められる支出の期間は、とくに定めはないものの常識的に考えて開業前の数ヵ月から長くても1年以内が妥当
  • 開業費になるものは、開業のための資格取得費用、セミナー参加費など
  • 開業費にならないものは、取得価額が10万円以上の固定資産や仕入れ、商品の購入など

開業準備で発生するさまざまな費用は、できる限り経費にして節税につなげると負担が減ります。

そのために、開業のタイミングと開業費にできる範囲を考えながら、開業の準備を進めていきましょう。

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