現在、「自由に仕事がしたい」「収入を増やしたい」という理由で退職し、開業する方が増加しています。
そもそも開業とは、「新しく事業を始めること」を意味しますが、起業や独立、創業などの言葉と混同される方も多いでしょう。
本記事では、開業とはどういった際に使う言葉なのか、また開業するメリットや、開業するまでにやるべき準備について解説します。
開業とは
開業とは、わかりやすく言い換えると「商売や事業を始めること」です。
開業と似た言葉に「独立」「起業」「創業」がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
ここから、以下の4つについて詳しく紹介します。
開業の意味
開業とは、「新しく商売や事業を始めること」という意味があります。
一般的に、税務署に開業届を提出し、個人事業主となった際に使われることが多いでしょう。
また、医師や弁護士など資格を持っている人が、自分の病院や事務所を立ち上げる際に、使われることもあります。
その他、商業施設やホテル、飲食店などをオープンする際にも広く使われます。
開業と独立の違い
ビジネスで使われる「独立」とは、自分で事業を営むこと、つまり自分の力で生計を営むことを指します。
例えば、「会社から独立して個人事業主としてスタートした」など、会社を辞めて一人立ちする際に、使われる場合が多いでしょう。
また「独立開業」「独立起業」など、組み合わせて使う場合もあります。
開業と起業の違い
開業も起業も「新しく事業を始める」という意味では同じですが、起業は「従来にない新しい事業を起こす」という意味で使われます。
例えば、ベンチャー企業を立ち上げた人を「起業家」と呼ぶなど、新しい分野にチャレンジする個人事業主や法人の立ち上げを指します。
開業と創業の違い
創業とは「事業を始めること」「事業の基礎を築き始めること」を指します。
個人か法人かを問わず、事業を始めれば創業したことになります。
会社の場合、登記前の不動産取得や仕入れ、財産の引き受けなど、開業準備も創業とみなされます。
開業のメリット
開業すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ここからは、以下4つのメリットについて解説します。
青色申告ができるようになる
開業すると青色申告が可能になり、3つの特典を受けることができます。
青色申告の主要な3つの特典は、以下のとおりです。
- 所得金額から最高65万円を差し引くことができる
- 配偶者等に支払う給与を必要経費に算入できる
- 赤字を前年や翌年の所得金額から差し引くことができる
開業初年度から、青色申告を受けるためには、以下の表の手続きが必要です。
提出書類 | 所轄税務署の提出期限 |
開業届 | 事業開始日から1ヵ月以内 |
所得税の青色申告承認申請書 | 事業開始日から2ヵ月以内 |
複式簿記による記帳(または簡易簿記)、貸借対照表・損益計算書等 | 青色申告をしようとする年の3月15日まで |
(参考:国税庁|はじめてみませんか?青色申告)
小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主が、廃業や退職時の生活資金のために積み立てる制度です。
掛金が、全額所得控除できるなどの税制メリットに加え、事業資金の借入れもできます。
小規模企業の経営者にとって、お得で安心な退職金制度です。
(参考:中小機構|小規模企業共済)
社会的信用が上がる
開業届を税務署に提出すると、社会的信用が上がり、以下の手続きが可能になります。
- 屋号付きの銀行口座が作れる
- 個人事業主向けの融資を受けられる
- 事業用クレジットカードが作れる
- 子どもの保育園に申し込める
上記の手続きには、開業届を提出した際の「控え」が必要になります。
郵送で開業届を出す場合は、控えを送ってもらうための、返信用封筒を一緒に送りましょう。
屋号付きの銀行口座が作れる
屋号付き口座とは、口座名義が「屋号(事業名称)+名前」になっている銀行口座のことです。
ほとんどの銀行で開設できますが、銀行によって特徴が異なるため、自分にあった銀行選びが必要です。
屋号付きの銀行口座のメリットは、取引相手の信頼を得られやすい点と、確定申告書類が作成しやすくなる点です。
開業したら、事業用として屋号付き口座を作っておくメリットは大きいでしょう。
開業のデメリット
開業にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
ここからは、以下2つのデメリットについて解説します。
失業保険を受給できない
開業すると、雇用保険の失業手当を受給できなくなる可能性があります。
失業保険とは、仕事を辞めた人が生活を心配することなく、一日も早く再就職してもらうための給付です。
そのため、開業届を提出して事業主になると、失業状態ではなくなるため、失業保険を受給できなくなります。
(参考:ハローワークインターネットサービス|基本手当について)
雑務が増える
開業すると、さまざまな雑務が増えます。
例えば、開業届を提出して青色申告をおこなう際は、日々の記帳業務が重要です。
記帳は、複式簿記のルールに従い「借方・貸方」に仕訳しますが、簿記をまったく知らない人や、慣れていない人にとっては苦手に感じるでしょう。
開業するまでの手順
開業を決意したものの、「まず何から始めればいいのだろう?」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。
ここから、開業するまでの手順について、わかりやすく解説していきます。
周りの人に報告する
開業を決めたら、まず周りの人、特に家族に報告をしましょう。
事業の立ち上げは、会社員時代と違い、安定した収入が確保されるわけではありません。
家族に同意を得られれば、バックアップしてもらえ、事業に専念できるでしょう。
事業計画を立てる
次に、事業計画を立てていきましょう。
事業計画とは、事業内容や戦略、収益見込み、経費などをまとめたビジネスプランを、詳細に記した書類です。
事業計画を作り込んでいくことで、事業の立ち上げや資金調達について客観的に見直し、改善するヒントを得られることもあります。
重要なビジネスプランを明確にするために、しっかり事業計画を立てておきましょう。
開業資金や備品を準備する
2022年度新規開業実態調査(日本政策金融公庫 総合研究所)によると、開業費用の平均値は1,077万円、中央値は550万円でした。
開業資金のうち、自己資金として準備するべき金額は、全額であればもちろん安心できますが、少なくとも2割〜3割を目安にするとよいでしょう。
また、備品は以下の流れで、計画的に準備を進めていきます。
- 必要になりそうな備品を思いつく限り書き出す
- 書き出した備品を場所や用途に応じて分類する
- 必要な数量を出し概算する
- 業者をリストアップし備品を仕入れる
必要となる備品は多岐に渡りますが、買い忘れがないよう、いくつかの工程に分けながら進めるのがポイントです。
開業届を提出する
開業資金を確保すれば、いよいよ開業です。
個人事業主の場合、法人のように法務局に登記をする必要はありません。
開業日から1ヵ月以内に管轄の税務署に開業届を提出しましょう。
開業する際にやるべきこと
開業する際にやるべきことはあるのでしょうか。
ここからは、開業する際にやるべき3つのことについて紹介します。
健康保険の切り替え
健康保険(協会けんぽ)に加入している人が、開業して個人事業主になった場合、住所地の市区町村で国民健康保険に切り替える必要があります。
扶養する配偶者がいる場合は、国民健康保険の被扶養者となるための手続きも、併せて住所地の市区町村でおこないましょう。
国民年金への加入
会社員から個人事業主に変わると、国民年金に加入する必要があります。
もし扶養している配偶者がいる場合は、その配偶者も変更が必要です。
退職日の翌日から14日以内に、住所地の市区町村で国民年金の加入手続きを済ませましょう。
税務関連の書類提出
開業する際は、必要に応じて以下の税務関連の書類を提出します。
税務関連書類 | 対象 |
---|---|
所得税の青色申告承認申請書 | 青色申告をしたい人 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 原則毎月支払う源泉所得税を、年2回にまとめて納付したい人 |
青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 | 青色申告で家族に支払う給与を経費にする人 |
青色申告で確定申告をしたい場合には、開業届と青色申告承認申請書の提出がないと自動的に白色申告になるため、忘れずに提出するようにしましょう。
まとめ
ここまで「開業とは?独立・起業・創業との違いやメリット」について紹介しました。
最後に、開業についてまとめます。
- 「開業」とは、開業届を提出し、個人事業主となった際に使われることが多い
- 開業するメリットは青色申告ができ、社会的信用が得られるなどがある
- 開業するデメリットは失業保険の受給不可や雑務が増えること
- 開業するには、事業計画の策定、資金や備品の準備などの手順が大切
- 開業する際は、健康保険や年金の切り替え手続きをしておくこと
開業するには、事業計画の策定や税務書類の準備など、慣れない手続きも必要です。
それぞれのポイントを押さえて、失敗のリスクを減らし、スムーズに準備を進めていきましょう。