旅行に関する規制が緩和され、ようやく観光客が増えてきました。
使っていない部屋や物件を持っている方のなかには、民泊で開業を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、民泊の具体的な始め方や必要な開業資金など、どこから手をつけていいのかわからないことも多いでしょう。
本記事では、民泊の開業方法や必要な資格、開業資金についてくわしく解説します。
民泊で開業を始めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
民泊とは
民泊とは、自宅や、個人が所有する住宅の全部、または一部を活用して、宿泊サービスを提供する事業のことです。
大きく分けるとホームステイのようにホストがいるところに宿泊する「家主在住型民泊」と、ホテルのようにゲストのみが宿泊する「家主不在型民泊」があります。
どちらの場合も民泊に区分され、各自治体に「民泊を運営する」届出を出す必要があります。
また、民泊の開業に特別な資格は必要ありませんが、民泊の形態に合わせて施設を整備し、自治体などに認定をもらう必要があります。
民泊を開業するために必要な資金
民泊で開業するためには、どのような資金が必要なのでしょうか。
以下の2つについて解説します。
初期費用
民泊で開業する場合、物件の購入費用や賃貸料、リノベーションなどの初期費用がかかります。
開業の初期費用として、以下のようなものがあります。
- 物件購入費または賃貸契約料
- リフォーム・リノベーション費用
- 家具・家電などの購入費用
- 清掃用品・備品の購入費用
- 消防設備設置費用
- 開業許可申請代行費用
- リネン・消耗品購入など
物件の状況や民泊の形態によって費用は異なるため、必要なものとそうでないものを線引きしておくことを心がけましょう。
運営資金
開業してから毎月かかる運営資金には、以下のようなものがあります。
- 水道光熱費
- 賃料
- 消耗品
- インターネット
- 管理費用(管理を委託する場合)など
民泊を開業してすぐに集客できるとは限りません。
はじめは利益が出ず、赤字になってしまう可能性も十分にあります。
軌道に乗るまで耐えられるよう、初期費用に加えて数ヵ月分の運営資金を確保しておきましょう。
民泊の開業資金を調達する方法
自宅を民泊に利用する場合は、物件を取得するための費用が抑えられるため、それほど高額な初期費用がかかりません。
しかし、物件を購入したり賃貸物件と契約したりする場合は、物件を取得するための費用やリフォーム費用がかかります。
さらに、高額な初期費用に対して自己資金が足りない場合には、融資を受けるなど資金調達をすることになりますので、注意が必要です。
民泊は2018年に民泊新法が制定されたばかりの新しい事業のため、銀行などでは民泊事業で申し込める融資が少ないのが現状です。
民泊事業で利用できる代表的な融資を2つ紹介します。
- 民泊事業ローン(三井住友トラスト・ローン&ファイナンス)
民泊利用を目的とした不動産の取得資金、所有不動産を民泊利用するために改築するリフォーム資金など、民泊事業に必要な資金専用のローンです。 - 新規開業資金(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫は100%政府出資の政策金融機関で、これから事業を始める人も融資を受けやすいのが特徴です。創業支援融資や生活衛生貸付などが民泊の開業費用の融資として利用できます。
民泊事業の広がりとともに、今後利用できる融資商品は増えていくことも考えられます。
こまめに情報を仕入れるようにしましょう。
民泊の開業に必要な手続き
民泊には、届出を出せば運営できる「新法民泊」と、旅館業として運営する「旅館業民泊」、特定の自治体で許可を受けて運営する「特別民泊」の3種類があり、それぞれ許可申請や届出の方法が変わります。
以下の民泊の運営方式3つについて解説します。
住宅宿泊事業法(新法民泊)で始める場合
住宅宿泊事業法(以下、新法民泊)は、民泊として営業できる日数は年間180日までと決まっていますが、届出をして許可がおりればすぐに開業できます。
運営方式 | 営業可能日数 | 必要事項 |
新法民泊 | 年間180日未満 | 営業開始までの手続きが簡単 |
新法民泊に必要な書類は以下のとおりです。
- 届出書(民泊制度ポータルサイトからダウンロード可能)
- 住宅の図面
- 欠格事由に該当しない事の誓約書
- 転貸承諾書
新法民泊の届出は、民泊制度ポータルサイトもしくは保健所でおこないます。
保健所で届出する場合は、自治体ごとに担当部署が異なるため、事前の確認が必要です。
旅館業法で始める場合
旅館業民泊は、ホテルや旅館などと同じような形態で、毎日運営できる民泊です。
年間営業日数に制限はありませんが、自治体の許可を取る必要があり、運営のハードルが高くなります。
運営方式 | 営業可能日数 | 必要事項 |
旅館民泊 | 制限なし | 管理スタッフの常駐が必要 |
旅館業民泊を始めるためには、「建築指導課」と「開発審査課」で、簡易宿所としての建築基準や建築許可を満たしているかといった確認を受け、さらに保健所へも申請をする必要があります。
申請添付書類は以下のとおりです。
- 登記事項証明書
- 状況見取り図
- 配置図・平面図
- 構造設備の仕様図
- 使用承諾書
- 水質検査成績書
- 土地建物登記簿謄本
- 検査済証
特区民泊で始める場合
特区民泊は、自治体ごとに運営できる地域が制限されていますが、消防設備などの規制が比較的緩く、旅館業民泊よりも簡単に始められる民泊です。特別な地域でのみ開業可能です。
運営できる地域では旅館業民泊と同様に365日営業が可能ですが、2泊3日以上の利用に限定されています。
運営方式 | 営業可能日数 | 必要事項 |
特区民泊 | 制限なし | 2泊3日以上での提供が必要 |
特区民泊は、自治体などが求める要件に該当する施設として認定をもらわなければいけません。
特区民泊の手続きは、以下の書類を各自治体窓口に提出します。
- 申請書
- 住民票の写し
- 賃貸借契約及びこれに付随する契約に係る約款
- 施設の構造設備を明らかにする図面
自治体によって窓口が異なるため、民泊制度ポータルサイトで確認し、余裕を持って準備を始めましょう。
旅館業法(簡易宿所)/民泊特区/民泊新法の違い
それぞれの違いは、下記の表の通りです。
旅館業法(簡易宿所) | 民泊特区 | 民泊新法 | |
営業申請 | 許可 | 認定 | 届出 |
提供可能期間 | 規定なし | 2泊3日~9泊10日までの範囲内で自治体が定めた期間以上 | 年間営業日数180日以内 |
床面積 | 33平米以上 | 25平米以上(自治体判断で変更可能) | 宿泊者一人当たり3.3平米以上を確保 |
※引用:すまいステップ「旅館業法(簡易宿所)/民泊特区/民泊新法の違い」より
民泊の開業を成功させるポイント
民泊の開業で成功させるには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
以下の開業を成功させる4つのポイントについて解説します。
利用ルールを定める
民泊を成功させるために、わかりやすいウェルカムガイドを作成しましょう。
ウェルカムガイドとは、民泊施設の利用方法を示した宿泊の手引きです。
外国語にも対応して、トラブルを予防できるよう、施設の利用方法をわかりやすく記載することをおすすめします。
遠方から来る人に楽しんでもらえるような周辺施設の案内や、迷わずに到着できる民泊へのアクセス方法なども、合わせて記載しておくとよいでしょう。
差別化を意識する
民泊の開業を成功させるために、他の民泊施設との差別化を意識しましょう。
古い建物をリノベーションする場合は、トイレは洋式にする、バス・トイレは別にするなど、水回りを重点的に快適で清潔感のある施設に整えます。
アメニティをひととおり揃えることは前提条件ですが、収支のバランスをみて付加価値をつけることも差別化の方法として有効です。
また、コンセプトのあるインテリアにすることで、民泊サイトに掲載する際のアピールポイントになるでしょう。
近隣住民対策をする
民泊で気をつけなければならないのが、近隣からの苦情対策です。
たとえば、利用客が出入りの際や宿泊中の施設内で騒ぐと、近隣住民に迷惑をかけることになります。
民泊事業者は、利用客が迷惑行為を繰り返すことのないように対策しなければなりません。
近隣と良い関係を築いておくための具体的な方法として、開業前に「近隣住民へ説明会をおこなう」「書面をポスティングする」などがあります。
記載内容は以下のとおりです。
- 民泊事業者の氏名
- 民泊施設の名称
- 苦情相談窓口
- ゴミの処理について
- 地震や火災など緊急事態が発生したときの対処方法と問い合わせ先
- 緊急時の駆けつけについて
これらを開業前に周知しておくことで、誠実な事業者として、近隣住民の理解を得やすくなります。
クレームがあればすぐに対応できる体制を整えておきましょう。
消防設備を充実させる
民泊の開業は、安全性を高めるために消防設備を整備する必要があります。
民泊で必要な消防設備は以下のとおりです。
- 自動火災報知設備(必須)
- 誘導灯(施設規模によって必要)
- スプリンクラー消火設備(施設規模によって必要、費用は100万円〜)
- 消火器(小規模施設は設置の義務はない)
誘導灯を設置する場合は、大きさや場所が細かく決められているため、自分の施設にはどこに何個必要か消防署で確認しておく必要があります。
また、消火器は面積の小さい施設には設置の義務はありませんが、安全のためにも1本は準備しておきましょう。
まとめ
ここまで民泊の開業方法について解説しました。
以下にまとめます。
- 民泊は住宅などで宿泊サービスを提供する事業であり、開業する際の資格は不要である
- 民泊の開業費用は、空室利用や物件購入などの状況に応じて費用は上下する
- 民泊の開業資金の調達方法は、民泊事業ローン(三井住友トラスト・ローン&ファイナンス)、新規開業資金(日本政策金融公庫)などがある
- 民泊の運営方式は「住宅宿泊事業法」「旅館業法」「特区民泊」の3つがあり、必要な手続きや申請先は異なる
- 民泊の開業を成功させるために、利用ルールの作成や近隣住民対策をおこなうことが重要である
民泊利用者は、海外からのインバウンドだけでなく国内旅行でも増加しています。
それぞれの運営方式に合わせた手続きや施設整備をおこない、開業準備をひとつずつ進めていきましょう。