現在弁護士として活動している人のなかには、いずれ独立して自分の事務所を開きたいと考えている人も多いのではないでしょうか。
独立して自分の事務所を持てば、責任やプレッシャーは重くなるものの、自分の理想のスタイルに近い状態で仕事ができます。
本記事では、弁護士が独立開業するメリット・デメリット、独立した場合の年収や必要になる費用などについて紹介します。
また、独立する際に必要な準備についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
弁護士が独立開業するメリット
まずは弁護士が独立開業するとどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
主なメリットは以下のとおりです。
それぞれの内容について具体的に説明します。
仕事を自分で選べる
弁護士が独立開業すると、受ける仕事を自分で選べるというメリットがあります。
事務所や企業に雇われているときとは異なり、苦手に感じる分野や興味のない案件なら、避けることが可能です。
もちろん、収入への影響を考えれば、苦手な分野や興味がない案件をすべて受けないというのは難しいかもしれません。
しかし、勤務弁護士と違い、受ける仕事をある程度自分の裁量で好きに選べる環境は、弁護士の仕事を続けるうえで大きなモチベーションになります。
実力次第で年収がアップする
弁護士が独立開業して、立場が勤務弁護士から事務所を代表する弁護士に変わると、年収もアップする傾向にあります。
事務所として得た売上を、どの部分にどれだけ配分するかを自由に決められるので、自分の収入を厚くすることもできるからです。
勤務弁護士の場合、大口の案件やむずかしい案件をこなしても、事務所内での評価こそ上がるものの、収入には反映されないケースもあります。
事務所を経営する弁護士であれば、大口案件をこなした売上はそのまま自分の収入アップにもつながり、事務所の評判が上がればさらに収入になる案件も来るようになるでしょう。
時間場所に制限を受けない
働く時間や場所を選ぶことなく仕事ができるのも、独立開業のメリットです。
独立開業した代表弁護士であれば、勤務時間や仕事をおこなう場所を自由に決めることが可能です。
もちろん、銀行や各種機関に出向いたり、経理や事務の作業をしたりなど、経営者としての仕事は増えますが、スケジュールをうまく調整すれば当日にいきなり休みを取るのもむずかしくありません。
経営者であれば、事務所の方針として全員に出勤を命ずることもできますし、全員テレワークという体制を構築することも可能です。全職員がテレワークになれば、交通費の削減にもつなげられるでしょう。
ある弁護士のケースでは、企業の顧問業務を中心に受けて事業を拡大させ、すべての対応はチャットやWeb会議ツールを利用することで、時間と場所の自由を得ています。
弁護士が独立開業するデメリット
弁護士が独立開業を検討するときは、デメリットを把握しておくことも重要です。
この項目では、以下のデメリットを解説します。
収入が不安定になりがち
独立開業で注目すべき大きなデメリットは、勤務弁護士とはちがい、収入が安定しないことです。
依頼がなければ当然収入はゼロになります。
開業当初は特に依頼が少ない傾向にあるので、数ヵ月間は収入ゼロという状況もめずらしくありません。
依頼が少ない間は、事務所によって収入が保証されていた勤務弁護士に戻りたいと感じることもあるでしょう。
事務所の経営が軌道に乗るまでの期間をどう乗り切るかが、特に重要になります。
経営者として責任が重くなる
独立開業すれば、事務所の運営責任はすべて自分にかかってきます。
弁護士本来の法務作業の他に、事務所全体の対外的な対応、従業員の業務管理や福利厚生、事務所の財務管理などの対内的な部分まで、すべて自分が最終的な責任を負います。
自分で自分を成長させる努力が必須
独立開業すると、自分より経験や能力のある上役や先輩からのフィードバックがないため、弁護士として成長しづらいこともデメリットです。
弁護士としても経営者としても成長し続けるために、信頼できる相談相手を独立開業前に確保しておきましょう。
弁護士が独立開業した場合の平均年収
独立開業した弁護士の平均年収に関する公式なデータはありませんが、一般的には1,000万円~1,500万円程度といわれています。
しかし、実際には300万円にも満たない人もいますし、億を超える人も。
ちなみに、厚生労働省の2019年の賃金基本構造統計調査では、企業や法人に所属する勤務弁護士の月収は50.25万円、賞与は125.56万円になっています。
賞与を年2回として計算すると、一般的な勤務弁護士の年収は約854.12万円です。
参考:政府統計の総合窓口e-Stat|賃金構造基本統計調査令和元年以前 職種DB第1表 | 統計表・グラフ表示
弁護士が独立開業を検討するタイミング
独立開業するタイミングは人によって異なりますが、一般的に弁護士登録から5~10年経過した時に独立を検討する人が多いようです。
2018年の弁護士白書の特集によると、登録から5~10年未満の51.3%が経営者弁護士になっています。
以降、弁護士としての経験年数を重ねるごとに、独立する割合が増えるようです。
参考:日本弁護士連合会|弁理士白書 2018年版|近年の弁護士の実勢について
しかし、具体的にどのように独立を目指せばいいのか、迷う人も多いでしょう。
近年では、日本弁護士連合会が若手弁護士向けに独立支援を行っています。
具体的には、以下のようなリストやマニュアルを提供しています。
- 独立開業支援メーリングリスト
- 若手会員・修習生向け支援メーリングリスト
- 弁護士偏在解消のための経済的支援の概要と紹介
- 「即時・早期独立開業マニュアル」
- 「即時・早期独立経験談集」
- 「司法修習生・弁護士のみなさん 地方で独立開業してみませんか」
弁護士の独立開業にかかる費用
弁護士の独立開業には、開業に必要な初期費用と、活動をおこなうための運転資金が必要になります。
この項目でくわしく解説します。
初期費用
弁護士の独立開業で必要になる初期費用の主な項目は、以下のとおりです。
- 事務所をかまえる物件
- 事務所の内装工事
- オフィス用品(デスク、椅子、会議テーブル、本棚、キャビネットなど)
- 事務機器の準備(パソコン、通信回線、コピー・プリンターなど)
- 事務員の採用(外出時の電話受付や雑務を頼める人を1人は雇用したい)
- ホームページ作成費用(インターネットからの集客に必須)
日本弁護士連合会が発行する「即時・早期独立開業マニュアル」によると、弁護士が独立開業するときにかかる初期費用は、自宅を事務所に使うなら50万円、それ以外なら100〜300万円となっています。
参考:日本弁護士連合会 若手法曹センター|即時・早期独立開業マニュアル 三訂版(2012年12月)
運転資金
弁護士が独立開業してから必要になる運転資金の主な項目は、以下のとおりです。
- 事務所賃料(自宅を事務所にする場合は不要なケースもある)
- 事務所水道光熱費
- 通信費(電話・インターネット)
- コピー・ファックスがリースならその費用
- 弁護士会費
- 判例検索システムやその他のソフト・ツールのサブスクリプション費用
- 人件費(事務員の給与は、時給なら平均1,400〜1,600円程度。月給なら月20万〜25万円程度)
上記の他、必要に応じて広告費用、開業資金をローンで用意したならその返済も発生します。
弁護士が独立する際に必要な準備
この項目では、弁護士が独立開業するときにおこなうべき準備について紹介します。
内容は以下のとおりです。
顧客確保の土台を作る
まずは、顧客を得るための土台作りが大切です。
自分に依頼してくれる顧客がいなければ、開業当初から無収入が確定してしまうからです。
顧客確保の土台を作るには、やはり勤務弁護士時代に可能な限り人脈やパイプを作っておくことです。
勤務弁護士時代に関わった依頼者や顧問先の人たちと信頼関係を築いておけば、独立した後も依頼してくれたり、知り合いを紹介してくれたりといったことにつながるでしょう。
また、弁護士会の活動や会合で、他の事務所の代表弁護士とつながっておくことも重要です。
関係を構築しておけば、何らかの事情で受けられない案件をこちらに紹介してくれることもあるかもしれません。
開業資金を確保する
開業資金と当座の運転資金を確保しておくことも重要です。
先述のとおり、弁護士の独立開業には独立するための環境を整える開業資金と、事務所を維持していくための運転資金が必要になります。
どれだけ顧客確保の土台を用意していても、想定どおりに依頼が来るとはかぎりません。
数ヵ月間依頼がゼロであっても問題ないように、運転資金は余裕をもって用意しておくべきです。
取扱事件を検討する
独立開業後に取り扱う事件を検討するときは、勤務弁護士時代にどのような案件を担当してきたかが重要になります。
開業直後は、自分にとって未知となる案件を受けることはおすすめしません。
まずは事務所の経営を軌道に乗せるために、慣れ親しんだ分野の案件を受任しましょう。
一方で、受任できる仕事の幅を広げることも重要になります。
今まで扱ったことのない案件に取り組むときは、弁護士会の研修を受けたり書籍で学んだりして、知識をみがいていきましょう。
集客方法を考える
独立開業後に安定して仕事を受けるには、さまざまな集客方法を実行する必要があります。
現在の集客はインターネットの活用が必須なので、まずは集客用のWebサイトを用意しましょう。
自分のこれまでの経歴や強み、専門分野などを記載して、自分はどのような弁護士なのかをアピールしてください。
運転資金が潤沢なら、状況に応じてオフライン広告やオンライン広告を出稿するのもおすすめです。ラジオでのPRも有効でしょう。
また、人脈を作るためにさまざまな交流会に参加するのもおすすめです。
弁護士会の研修や委員会だけでなく、異業種交流会などにも定期的に参加して名刺交換を行い、自分の事務所を売り込みましょう。
弁護士会の研修を積極的に受けることで法律相談を担当させてもらい、相談からそのまま案件を受任するケースもあります。
料金体系を決める
独立開業時に、料金体系は慎重に決めましょう。
集客のしやすさを優先して相談料や着手金の金額を安くし過ぎたり、無料にしたりしてはいけません。
安易な無料設定や低過ぎる金額設定は、売り上げを安定化させるための足かせになります。
適正な料金設定を知るには、勤務弁護士時代の事務所や先輩弁護士の料金設定を参考にしたり、自分の競合となる地域の相場を調べたりして決めるのがおすすめです。
事務員を採用する
弁護士が独立開業するときは、事務員を1人採用するのがおすすめです。
自分が外出するときの電話対応や来客対応の他、書類の整理やコピー、経理事務などの事務作業全般の負担を軽減できるからです。
事務作業をある程度事務員にまかせられれば、自分は法律業務に専念できます。
事務員を採用するときは、可能であれば法律事務所での勤務経験を持つ人を採用するのがおすすめです。
未経験者を教育するには時間がかかります。すでにある程度の業務の流れを知っている人であれば、採用時から即戦力になってくれます。
もちろん費用はかかるため、依頼が少ない独立当初のタイミングではあえて事務員を採用せず、経営が軌道に乗ってから採用の検討をはじめるのもひとつの選択肢です。
まとめ
この記事の要点を5つ挙げると以下のとおりです。
- 独立開業すれば仕事を自分で選べる
- 収入が不安定になりがち
- 代表弁護士の年収は一般的に1,000万円~1,500万円程度といわれている
- 弁護士登録から5~10年経過した時に独立を検討する人が多い
- 弁護士業務や経営に集中するため、事務員は1人以上雇いたい
弁護士が独立開業するときは、少なくない開業資金や運転資金が必要になります。
しっかりと戦略や準備を整えたうえで、スタートするのがおすすめです。
思うように成果が出ないケースも想定し、自宅を事務所にして物件費用を節約したり経営が軌道に乗るまで事務作業も自分でこなしたりなど、状況に応じて臨機応変に対応していきましょう。