多額の借金を抱えてしまい、自力で返済することが現実的に難しい方は多いです。
このような状況に陥ったときに利用を検討してほしい制度として「任意整理」があります。
言葉の聞き馴染みはあるかもしれませんが、実際にはどのような制度なのかを詳しく知らない方は多いのではないでしょうか?
この記事では、任意整理の概要から手続きを進めるための条件、メリット・デメリットを踏まえて総合的に解説します。
任意整理とは?
任意整理とは、債務者と債権者が将来支払う予定の利息軽減などを交渉することを指します。
債務者が弁護士・司法書士などに依頼を行って、専門家が間に入って交渉を行うことが一般的です。
任意整理の手続きをするための条件や特徴
任意整理の手続きは、各種ある債務整理手法のなかでも裁判所を経由しないことから、手続きが煩わしいのが特徴です。
すべての債務整理手法のなかで、一番利用される制度ではありますが、実際に手続きを行う上で以下のような条件があります。
主な条件
- 借金総額が比較的少額であり、安定収入が見込める
- 過去に借金を返済した実績がある
- 原則3〜5年で完済できる見込みがある
- 月々の返済額を手取り収入の2〜3割に収められる
債権者と和解が成立したとしても、任意整理は毎月の支払いを行うことに変わりありません。
返済するべき金額と収入のバランスが適正なものであるかをチェックしておきましょう。
アルバイト・パートでも任意整理は可能
アルバイト・パートであったとしても安定した収入が得られる場合には、任意整理利用が可能です。
近年は、会社側も「正社員」雇用をやみくもに行わずに、「契約社員」「パート」などで人材を確保する流れも一般的になっています。
ただし、毎月の出勤日にバラつきがあることで収入に変動がある場合でも、決められた金額を返済しなければなりません。
収入と返済のバランスを加味した上で、無理のない返済金額になるかを手続き前に専門家に相談しておきましょう。
任意整理のメリット
毎月の返済金額を決めて計画的に返済する状況を整える任意整理ですが、手続きを行うことで得られるメリットを紹介します。
返済期間中の利息支払いをカットできる
債権者との条件交渉にもよりますが、任意整理を行うことで本来発生する利息のカットを認めてくれる可能性は高いです。
具体的には、以下の利息が該当します。
- 将来発生する利息(借金を完済するまでに発生する利息)
- 既に経過した日数分の利息(最終返済日から任意整理の和解手続までに発生した利息)
- 遅延損害金(過去に返済金支払が遅延して発生した利息)
利息の支払いがカットされることで、毎月の返済額が明確になり、返済のゴールをイメージできるようになるのです。
任意整理を行う会社を選ぶことが可能
「自己破産」「個人再生」の場合は、すべての債務を強制的に整理する制度です。
ただ、奨学金などの連帯保証人を立てている債務を整理すると、連帯保証人に返済義務が移行してしまい、迷惑をかけることになります。
任意整理では、整理を行う債務を選ぶことができるため、連帯保証人に迷惑をかけることなく手続きを進めることが可能です。
財産を手放す必要がない
「自己破産」では、すべての債務の支払義務を免責する代わりに、自身が所有する車・土地・住宅などの資産を手放す必要があります。
「任意整理」では、自身が持つ資産を手放さずに手続きを進められる点も利点です。
「任意整理しないほうがいい」理由とは?
すべての債務整理手法のなかで一番利用されている制度ではありますが、どのような制度かを理解しないと後悔してしまう結果を招きます。
次に、任意整理しないほうがいい理由について見ていきましょう。
借金を大幅に減額できるわけではない
「任意整理」とは、将来利息・遅延損害金などをカットした上で、債務を分割して支払う手続きです。「個人再生」「自己破産」と大きく異なる点としては、債務元本を減額する制度ではないということ。
利息をカットできる分、総支払金額は減少しますが、大幅に減額できる制度ではないことを頭に入れておきましょう。
ブラックリスト状態となる
債務整理を行うことで、信用情報機関に事故情報が登録されるブラックリスト状態となります。
詳細は後述しますが、生活に大きな支障を生むため、ブラックリスト状態で起きるデメリットを受け入れられない場合には手続きを行うべきではありません。
ブラックリスト掲載期間とデメリット
信用情報機関に事故情報が掲載される「ブラックリスト状態」ですが、掲載される期間から主なデメリットまでを詳しく見ていきましょう。
債務整理におけるブラックリスト掲載期間とは
日本国内にある信用情報機関は、以下があります。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 日本信用情報機関(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
債務整理を行った場合の事故情報の登録期間は、完済から5〜7年とされている場合が多いです。
自身の事故情報の登録状況が知りたい場合には、信用情報機関に開示請求を行うことで確認できます。
ブラックリスト登録のデメリットとは?
個人信用情報に事故情報が登録されている「ブラックリスト状態」では、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
クレジットカード作成
「ブラックリスト状態」では、クレジットカードを新規で作成する場合に「審査」プロセスで信用情報を照会されるため審査に落とされることになります。
そのため、クレジットカード作成ができなくなるのです。
新たにローンを組むことができなくなる
新規でローンを組む場合も「審査」プロセスで「事故情報」を確認されてしまい、審査落ちとなります。
住宅ローン・マイカーローンなども組むことは難しくなるため、新規ローンを組むことを検討されている方は注意しましょう。
保証人になれなくなる
保証人は、契約者本人が支払いを継続できない場合に、支払義務を負う責任があります。
ブラックリストに登録されていると、支払義務を全うしない可能性があると判断されるため、保証人になることができません。
任意整理をしても意味のない人とは
「任意整理」は、返済に困っているすべての方にマッチする制度ではありません。
この項目では、任意整理を行っても効果が薄い方の条件を見ていきましょう。
低金利の債務を借り入れている場合
住宅ローン・マイカーローン・奨学金などの債務は、消費者金融から借入を行うことと比較しても低金利で提供されています。
上記のような低金利ローン・借金を抱えている場合には、任意整理を行ったとしても減額幅が小さいためメリットは少なくなるのです。
債権者が交渉に応じてくれない
「任意整理」は、債権者と債務者で交渉を行って、和解を勝ち取る手法です。
そもそも、債権者側が交渉に応じてくれない場合には、任意整理手続を進めることもできません。
債務者に返済を継続する能力がない
「任意整理」には、元本を減額する効果はありません。
大幅な減額効果を得られないことから、債務者側が返済を継続するための収入がない場合には、任意整理以外の方法を検討する必要があります。
任意整理のポイント
任意整理手続きを行うことで「どのようなことが起きるのか?」を事前に知っておかないと、想定から外れたことに困惑することもあるでしょう。
「任意整理」を実際に行ったときに、見逃されやすいポイントを解説します。
任意整理したクレジットカードは強制解約になる
所持しているクレジットカードの「任意整理」を進める場合、クレジットカード契約は強制解約となることを頭に入れておきましょう。
クレジットカード自体も、弁護士・司法書士に「任意整理」手続きを開始するタイミングで受け渡す必要があるため、準備しておく必要があります。
クレジットカードのポイント等は使っておくべき
上記で説明したように、クレジットカードは強制解約となり、使用もできなくなります。
強制解約になる前に、溜まっているポイントは残さず使っておくことも検討しておきましょう。
ある程度の支払い能力は必要
「任意整理」での手続きを行う場合には、ある程度の支払い能力を有していることが前提となります。
債務の元本を減額する効果がないため、毎月一定の金額を支払える力が求められるからです。
支払い能力に少しでも不安がある場合には、弁護士・司法書士に相談を行いましょう。
任意整理する場合の注意点
最後に「任意整理」を行う場合の注意点をいくつかピックアップして解説します。
銀行系カードローンの任意整理に注意
低金利・長期間の返済期間を想定した「銀行カードローン」を任意整理する場合には注意しましょう。
任意整理を行うと、返済期間は3〜5年の間に固定されます。返済期間が短くなることで、毎月の返済金額が増加する可能性があるのです。
事前に弁護士・司法書士に相談して、毎月の支払金額が上がるリスクを手続き前に知っておくことが必要となります。
任意整理後は過払い金を取り戻せない恐れがある
2007年より前に時代を遡ると、利息制限法で設定されている上限金利以上の金利で利息を支払っている例は珍しくありませんでした。
「過払金請求」とは、上記のような払い過ぎていた利息を請求する手続きです。
任意整理を弁護士・司法書士に依頼した場合には、債務整理手続きと並行して「過払金発生確認」と「請求手続き」を進めます。
その後、債権者と交渉を通じて和解内容を書面で交わす際に、「債権債務なし」の文言が入った状態で締結すると、過払金請求は不可能になるのです
(「債権債務なし」は、相手に何かを請求する権利、相手から請求を受ける義務もないという意味であるため)。
自分で任意整理を進める場合などは、注意しましょう。
2回目以降の任意整理は厳しくなる
任意整理とは、返済をすることを前提として債権者側が利息のカットなどの条件を譲歩してくれます。
もし、1回目で返済を最後まで履行できずに、2回目の任意整理となった場合には、約束を守られなかったことから厳しい姿勢になる可能性が高いです。
2回目の任意整理を行う状況に陥っている場合には、「個人再生」「自己破産」などを検討するべきでしょう。
まとめ
この記事では、任意整理の概要からメリット、ブラックリスト登録で起きることなどにも触れて総合的に解説しました。
以下、本記事のまとめです。
- 「任意整理」とは、債権者と「将来利息のカット」などの条件を交渉して和解を目指す手続き
- 安定した収入がある場合には、パート・アルバイトでも「任意整理」手続きは可能である
- 「任意整理」は、住宅・車・土地などの財産を手放さなくてよい
- 「ブラックリスト状態」になると、ローン契約やクレジットカード作成ができなくなる
- 「任意整理」が適切な手段であるかは、弁護士や司法書士に相談して判断するべき
「任意整理」は、裁判所を経由しない手法であるため手続きが煩雑でないという特徴があります。
その反面、大きな債務減額効果は得られないため、多額の債務を抱えている方にはおすすめできません。
まずは、弁護士・司法書士への無料相談を活用しながら、どの債務整理手法を選ぶのがベストかを知ることからスタートしましょう。
時間のない方は、インターネットサイトにある「借金減額シミュレーター」などで自身の状況と立ち位置を知る行動を起こすことが大切です。