事業を始める際には開業費がかかります。
しかし、開業費の線引きが今ひとつわからない方もいるのではないでしょうか。
当記事では開業に向けて購入したものがどこまで開業費に含まれるのか、対象になる範囲や償却方法について解説します。
開業費とは
開業費とは、開業日までの間にかかった準備費用を指します。
法人の場合は法人設立から営業開始までの費用に限定されていますが、個人事業主の場合はその縛りがありません。
そのため、開業日までの支出であれば広い範囲で開業費の適用が認められています。
開業にかかった費用であれば特に期限は設けられていないため、原則的には数年前の購入品でも構いません。
しかし、数年前の出費を開業費として扱うことは現実的にはあまりありません。
数年前の出費を開業費として扱う場合には、開業に使用したという証拠をきちんと残しておく必要があります。
なにより重要視されるのは「その出費が開業のために使われたものであるのか」です。
開業後に購入したものは開業費に含まれる?
開業後に購入したものは開業費にはできません。
開業費は開業日までにかかった費用となるため、開業後に購入したものは開業費には当てはまりません。
開業費として認められる範囲
開業費としての範囲も、法人と個人事業主では適用範囲が異なります。
法人の場合、開業費として認められる支出内容は「特別な支出」に限られています。
個人事業主の場合は「特別な支出」に加え、毎月のように継続的にかかる支出を指す「経常的な支出」も開業費に含まれます。
この章では個人事業主の開業費について解説します。
開業費になるもの、ならないものは以下のように分類されます。
開業費になるもの
開業費になるものを特別な支出と経常的な支出に分けて紹介します。
個人事業主の場合、かなりの広範囲で開業費が適用されていることがわかります。
特別な支出の例
- 印鑑・名刺などの作成費
- チラシ、パンフレットなどの広告宣伝費
- 打ち合わせ・商談などの交際費
- 事前調査、打ち合わせなどの交通費
経常的な支出の例
- インターネット利用料金などの通信費
- 店舗・事務所などの賃貸料
- 店舗・事務所などの光熱費
- 自動車保険、火災保険などの保険料
- 事務用品など消耗品
開業費にならないもの
開業費にならないものは以下に該当します。
- 1点あたりの購入費用が10万円以上のもの
- 店舗・事務所などの敷金、礼金
- 仕入れにかかる費用
1点あたり10万円以上のものは開業費ではなく固定資産として計上します。
店舗・事務所などを借りる際にかかった敷金は、基本的に返却されるため開業費として認められません。
礼金も戻るものではありませんが取り扱いが異なります。
20万円以下のときは経費として処理できますが、20万円を超えると「長期前払費用」として扱います。
繰延資産として償却するため開業費にはなりません。
また、仕入れ費用は開業後の売上原価になるため、開業費にはなりません。
開業費の仕訳方法
開業費を計上する際の仕訳方法としては、支出した項目ごとに分けることが望ましいですが、項目の数が多いようであれば、まとめて計上しても構いません。
項目ごとに分ける場合でも、実際に支払った日付がバラバラであっても日付欄にはすべて開業日を記入します。
まとめて入力する際も、日付欄には開業日を記入しましょう。
詳細欄には開業費だけの記入で構いません。
その際には内訳がわかるように、計上額のもととなる明細の用意と領収書は保管しておくようにしておきましょう。
なお、金額が少ない交通費(バスや距離の短い電車など)、接待などの交際費を割り勘にした金額のように領収書が出せないものも存在します。
その場合、自分で出金伝票を書いておけば問題ありません。
支払いが発生した理由を記しておけば、信頼性が担保され、見返した際にもすぐに思い出せます。
開業費の償却方法
開業費とは経費ではなく繰延資産という資産の科目に含まれます。
そのため繰延資産として資産に計上し、その後に償却します。
開業費の償却方法の考え方には、会計上と税法上の2通りあります。
- 会計上では均等償却
- 税法上では任意償却
均等償却と任意償却のどちらの方法でも選択できます。
実際のところは経費にする金額を自由に決めることができるため、税法にのっとって任意償却する場合が多いです。
それぞれの償却方法の違いを解説します。
均等償却
均等償却とは、繰延資産の金額を定められた期間で均等に償却する方法です。
均等償却を選択した場合、5年で均等に償却していきます。
定められた償却期間で均等に費用を配分して、毎期同額を費用として処理していきます。
任意償却
任意償却は、利益と相談しながら償却期間や償却額を自由に設定できる有効な課税対策です。
例えば、開業までに200万円の開業費が発生したとします。
任意での償却を選択すれば、下記のように事業の利益額に応じて償却額を調整し、選択ができます。
2期目:少々利益が出たので20万円だけ償却する
3期目:たくさん利益が出て税金が高くなるので、100万円償却する。
このように節税ができるため、キャッシュフローの観点からも重要な選択肢となります。
均等償却のように5年の縛りもありません。
例えば、開業から5年間ずっと赤字だったとします。
そして6年目にして大きな黒字に転換した場合にも、6年目に全額一括での償却も可能です。
以上のようなことから実際の償却の際には、税法にのっとって任意償却が多くなっています。
開業費は任意償却で経費として計上するタイミングや金額を調整すれば、節税につなげられます。
開業費の領収書は帳簿付けが必要?
開業費を正しく計上するには、領収書の帳簿付けは欠かせません。
ここでは仕訳帳、減価償却資産台帳への記入について紹介します。
仕訳帳への記入
仕訳帳とは、すべての取引を日付順に記録した帳簿です。
開業費の合計が10万円を超えた場合は、開業費は資産の科目、開業費償却は経費の科目として仕訳帳へ記入します。
開業費償却とは開業費を繰延資産として資産計上した場合、その効果が及ぶ期間の決算時に償却を行う費用勘定のことを言います。
仕訳の際は資産の科目を開業費、経費の科目は開業償却費を用いて仕訳帳に入力してください。
開業費の合計が10万円未満の場合は、通常の経費計上時の仕訳記入と同じで問題ありません。
減価償却資産台帳への記入
10万円以上の開業費を申告する場合、減価償却資産台帳に記入が必要です。
減価償却資産台帳とは、減価償却履歴を記入する台帳です。
先に述べた内容で、開業費用は繰延資産に該当するとお伝えしました。
そのため繰延資産は、取得情報や減価償却・売却などすべての経緯を減価償却資産台帳に記録して管理しなければなりません。
開業費に修正が必要となった場合、仕訳帳と減価償却資産台帳の両方を修正しなければならないためです。
修正漏れのないよう注意しましょう。
まとめ
- 開業費とは一部を除いて開業前の準備から開業までにかかった費用を指す
- 開業後に購入したものは開業費にはならない
- 仕訳は項目ごと、まとめてどちらでも構わないが、日付は開業日とする
- 償却方法には、均等、任意が選べるが、節税面でも任意を選ぶことが多い
- 開業費の合計が10万円を超えた場合、仕訳帳・減価償却資産台帳への記入が必須
開業の準備で発生した費用は、開業費として経費に計上可能であることを解説しました。
開業の際に、正しく開業費の計上ができるよう正しい帳簿付けと、明細や領収書の保管はしっかりとしておきましょう。